「そういうテントを開けてみると、中で冷たくなってるってことが多いよ。冬場のほうが多いね。とくに酒飲みはね。俺も気をつけないと危ねえなあ」
当時、上野公園で生活していた男性(60代)は教えてくれた。警察が呼ばれ、遺体が淡々と運ばれていく。
僕が取材で話を聞いた人も、あっさり亡くなってしまった。
「上野公園では、ホームレスはこんな簡単に亡くなっていくのか……」と、強い衝撃を受けた。
ほとんどは引受人が見つからない
ホームレスが亡くなった後はどのような扱いをされるのかを簡単に説明しておきたい。ホームレスの多くは、身元がわからない場合が多い。今回は、結果身元が判明しなかった場合のホームレスに絞る。
遺体の発見者などが警察に通報し、警察官が現場に確認に向かう。調査をして身元がわからない場合「行旅死亡人」の扱いになる。「行旅死亡人」とは氏名・本籍・住所がわからず、遺体の引き取り手もない死者のことだ。
遺体は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」にのっとり、亡くなったことを確認した自治体に受け渡される。
これは、戸籍法の第92条第1項「死亡者の本籍が明かでない場合又は死亡者を認識することができない場合には、警察官は、検視調書を作り、これを添附して、遅滞なく死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない」にのっとっている。
ちなみに、遺体そのものは、自治体に受け渡されず、警察当局から葬祭業者に運ばれ、そこで保管される。
自治体は、死亡の届け出と火葬許可を役所内で迅速に取る。同条第3項「第1項の報告があった後に、(省略)死亡者を認識したときは、その日から十日以内に、死亡の届出をしなければならない」にのっとって処理されるのだ。火葬許可が出たのち、葬祭業者が火葬を実施し、お骨についてはその後3年間はそこで保管される。
まったく引受人が探されないわけではない。政府が一般国民に知らせる事項を編集し、毎日刊行されている“官報”には、行旅死亡人の情報が載せられる。氏名・本籍・住所は不明と書かれるが、亡くなったときの本人の特徴(体格、頭髪、服装)や発見された日時と場所、推定死因も記載される。最後には「心当たりの方は連絡ください」と書かれている。
だが官報をチェックしている人は、ほぼいないのが現状だ。だからほとんどの場合、引受人は見つからない。万が一に見つかった場合も受け取りを拒否されることも多い。
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