全世代型社会保障、今後何を議論すべきか 若年世代にも恩恵が及ぶ改革案づくりを

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検討会議は、その名の通り「全世代型社会保障」のあり方を検討する場となる。では、どのような議論をしていくのだろうか。

社会保障というと、年金、医療、介護などを想起するが、これらの恩恵を受けるのは主に高齢世代で、若年世代に恩恵はあまり及ばない。その印象を変えるため、若年世代にも恩恵が及ぶ「子ども子育て支援」も社会保障の枠内に含めることにした。「全世代型」とは、待機児童解消や幼児教育無償化も含んでいる。

消費税率10%の増税財源は、待機児童解消や幼児教育無償化などに充当した。今はその成果を見届けている最中で、対策をただちに追加しなければならないわけではない。したがって、検討会議で、子ども子育て支援の追加策がどんどん出てくるとは考えにくい。

若年世代に恩恵が及ぶ社会保障改革は何か

すると、議論の焦点は、改善が求められる年金、医療、介護に集中するかもしれない。

しかし、そうなると、検討は高齢世代に恩恵が及ぶものと見られてしまう。看板倒れにならないようにするには、若年世代に恩恵が及ぶ案件も検討しなければならない。

社会保障制度の中で、若年世代に「給付増」という形で恩恵が及ぶものはあまり残されていない。逆に「負担減」という形でなら、恩恵が及ぶものが残されている。

例えば、医療で75歳以上の患者負担が原則1割となっているのを、今後75歳になる人から順次、原則2割負担とするという改革だ。若年世代が払う医療保険料の多くは、高齢者の医療費の財源に回っている。世代間の助け合いとしては美しいが、度が過ぎては若年世代の重荷となる。若年世代の医療保険料負担の増加を放置したままでは、若年世代を苦しめる。

だから、75歳以上の患者負担割合を引き上げることで、若年世代の医療保険料の負担増を抑えることができる。これは、若年世代にも恩恵が及ぶ社会保障改革となる。他方、75歳以上の患者負担割合の引き上げは、高齢者や医療界に根強い反対がある。

「全世代型」というからには、高齢世代だけでなく若年世代にも恩恵が及ぶ社会保障改革に着手することが求められる。検討会議はその名のように、全世代型の改革を提起できるのだろうか。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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