速読派は得られない「豊かな読書」という体験

読書の質を上げる「スロー・リーディング」

「読書が苦手」という人は、ひょっとしたら読書のコツを知らないのかもしれない(写真:Fast&Slow/PIXTA)

本をどう読むかということについては、人は意外なほど無頓着だ。

本の読み方など、いまさら人に教えられるまでもない。そう誰もが考えるかもしれない。しかし、単に文章を読むということと、本という形式にまとめられた文章を読むということとは、決して同じではない。

本を読むためには、料理を作ったり、車を運転したりするのと同じで、それなりに技術が必要であり、ちょっとした工夫次第で、読書は何倍も楽しくなる。にもかかわらず、私たちは、それを誰からも教わってはこなかった。それで、誰もが自己流のやり方を貫き通している。

長年「速読」に憧れていたが…

本を読まないという人、読書が苦手だ、苦痛だという人は、実はその読み方に問題があるのかもしれない。あるいは、これまでただ何となく本を読んできて、それで何も困らなかったという人も、これを機に、改めて読書の方法そのものについて考えてみると、これまでとはまったく違った発見があるかもしれない。

拙著『本の読み方』は、そうした問題意識に立って、そもそも本はどうやって読んだらいいのか、をできるだけわかりやすく説明することを目的にしている。その基本方針が、スロー・リーディングの実践であり、本書の立場は、徹底してアンチ速読である。

本を速く読みたい。――確かにそれは多くの人の夢かもしれない。日々、洪水のように出版されている膨大な数の書籍を、次々と読みこなし、それらの情報を効率的に身に付けてゆくことができるなら、多忙な日々の生活も、さぞや「知的な潤い」に満ちたものになるだろう。誰でもそう考えるに違いない。

実は私も、長年、「速読」に憧れていた1人だった。仕事柄、読まねばならない本も多く、机の傍らに積み上げられたそれらを見るたびに、「速く読めれば楽なんだけどなあ……」と考えることもしばしばだった。実際のところ、私の本を読むペースはかなり遅い。何度か意を決して、速読法なるものにチャレンジしたこともあるが、1度として成功したことはない。じっくり読まなければ、どうしても内容がアタマに入らないのだ。

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