速読派は得られない「豊かな読書」という体験 読書の質を上げる「スロー・リーディング」
もちろん、単にゆっくり読めばいいというものでもない。最初に書いたとおり、どんなことでもそうだが、読書にもやはりコツがある。決して難しいことではないが、そのコツさえ知っていれば、読書はもっと楽しく、もっと有意義で、それを知らずにガムシャラに文字を追うよりも、はるかに多くのことを教えてくれ、人間的にも成長させてくれるだろう。
「スロー・リーディング」とは、差がつく読書術だ。その「差」とは、速さや量ではなく、「質」である。特別な訓練など何もいらない。ただくつろいで、好きな本を読むときに、ほんの少し気をつけておけば、それだけで、内容の理解がグンと増すようないくつかの秘訣がある。
「本当の読書」とは何なのか
社会はますます、そのスピードを速めつつある。だから本も速く読まねばというのではなく、だからこそ、本くらいはゆっくり、時間をかけて読みたいものだ。そうして、慌ただしい日々の生活の中に、自分自身で作るゆったりとした読書の時間は、どんなにささやかであっても、かけがえのない人生のゆとりだろう。
スロー・フードが提唱されてすでに久しいが、食という原始的な欲求が豊かに満たされるべきであるならば、読書という知的な欲求もまた、同様の豊かさで満たされるべきだ。
反「速読」という意味での「遅読」という発想は、山村修氏の手柄だが(『遅読のすすめ』新潮社刊)、本書では、スロー・ライフのような昨今のライフスタイルの見直しの流れの中で、読書にもしかるべきポジションを与えたいという意図から、あえて同系の「スロー・リーディング」という言葉を用いることにした。
本当の読書は、単に表面的な知識で人を飾り立てるのではなく、内面から人を変え、思慮深さと賢明さとをもたらし、人間性に深みを与えるものである。そして何よりも、ゆっくり時間をかけさえすれば、読書は楽しい。私が伝えたいことは、これに尽きると言っていい。
やみくもに活字を追うだけの貧しい読書から、味わい、考え、深く感じる豊かな読書へ。きっと新しい読書体験があなたを待っているはずだ。
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