速読派は得られない「豊かな読書」という体験 読書の質を上げる「スロー・リーディング」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

もちろん、単にゆっくり読めばいいというものでもない。最初に書いたとおり、どんなことでもそうだが、読書にもやはりコツがある。決して難しいことではないが、そのコツさえ知っていれば、読書はもっと楽しく、もっと有意義で、それを知らずにガムシャラに文字を追うよりも、はるかに多くのことを教えてくれ、人間的にも成長させてくれるだろう。

「スロー・リーディング」とは、差がつく読書術だ。その「差」とは、速さや量ではなく、「質」である。特別な訓練など何もいらない。ただくつろいで、好きな本を読むときに、ほんの少し気をつけておけば、それだけで、内容の理解がグンと増すようないくつかの秘訣がある。

「本当の読書」とは何なのか

社会はますます、そのスピードを速めつつある。だから本も速く読まねばというのではなく、だからこそ、本くらいはゆっくり、時間をかけて読みたいものだ。そうして、慌ただしい日々の生活の中に、自分自身で作るゆったりとした読書の時間は、どんなにささやかであっても、かけがえのない人生のゆとりだろう。

『本の読み方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

スロー・フードが提唱されてすでに久しいが、食という原始的な欲求が豊かに満たされるべきであるならば、読書という知的な欲求もまた、同様の豊かさで満たされるべきだ。

反「速読」という意味での「遅読」という発想は、山村修氏の手柄だが(『遅読のすすめ』新潮社刊)、本書では、スロー・ライフのような昨今のライフスタイルの見直しの流れの中で、読書にもしかるべきポジションを与えたいという意図から、あえて同系の「スロー・リーディング」という言葉を用いることにした。

本当の読書は、単に表面的な知識で人を飾り立てるのではなく、内面から人を変え、思慮深さと賢明さとをもたらし、人間性に深みを与えるものである。そして何よりも、ゆっくり時間をかけさえすれば、読書は楽しい。私が伝えたいことは、これに尽きると言っていい。

やみくもに活字を追うだけの貧しい読書から、味わい、考え、深く感じる豊かな読書へ。きっと新しい読書体験があなたを待っているはずだ。

平野 啓一郎 小説家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ひらの けいいちろう / Keiichiro Hirano

1975年愛知県生まれ。京都大学法学部卒業。1998年、大学在学中に雑誌『新潮』に寄稿した作品『日蝕』(新潮文庫)が、“三島由紀夫の再来”として注目を集める。同作品で翌年芥川賞を受賞。2002年、2500枚を超す大作『葬送』(新潮文庫)を刊行。以後、旺盛な創作活動を続け、その作品は、フランス、韓国、台湾、ロシア、スウェーデンなど、翻訳を通じて、広く海外にも紹介されている。芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞の『決壊』(新潮文庫)、Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞の『ドーン』(講談社文庫)、渡辺淳一文学賞受賞の『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)、読売文学賞を受賞した『ある男』(文藝春秋)などの著書がある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事