竹中平蔵氏の描く「2020年の日本の景色」 竹中平蔵氏が語る東京五輪の経済効果(下)
東京の景色が変わるもう1つの身近な事例が、品川の開発だ。いまJRの東海道線は、南西から来て東京駅で折り返している。一方、高崎線や宇都宮線など北東から来る線は、上野駅で折り返すことになっている。そのために、北東方面用の車両基地と南西方面用の車両基地が、田端と品川に存在している。
しかし東北本線・宇都宮線などを上野から東京まで延ばし、2014年度には東海道線と直通運転できるようになるという(東北縦貫線)。そうなれば、車庫は一箇所で済むことになる。そこで、都心に近く開発価値の高い品川車庫約一五ヘクタールを開発しようというのだ。このニュースは、身近な話題としては「田町・品川の間に新駅ができる」というかたちで伝えられた。2020年に新駅ができるとすると、山手線としては1971年の西日暮里駅以来の出来事になる。じつに、49年ぶりの新駅だ。鉄道ファンならずとも、関心が高まる。
品川という場所は、いろいろな意味で注目に値する。東海道新幹線のすべての列車が停車し、羽田にも近い。リニアモーターカーの発着駅も、品川である。ウオーターフロントにも近く、開発余地は大きい。考えてみれば、江戸時代の街の中心は両国や日本橋であり、それが丸の内方面へと南下してきた。また用途別に特色を強めながら、霞が関、六本木、新宿・渋谷へと広がった。その南下傾向がさらに進んで品川に至る、と考えることもできる。
東京の街がこのように目に見えて変化しつつあるいまの状況は、経済機能を強化する大きなチャンスといえる。グローバル競争という言葉が頻繁に使われるが、その実態は都市間競争という側面を強くもっている。今日の産業が、都市立地型の知識集約産業を主体としているからだ。また、イノベーションを競う時代に、その拠点としての都市の重要性は高まっている。アートの時代という側面からも、多様な人材が交流する都市の機能が注目されるのだ。
日本の都市行政を振り返っても、東京という大都市の機能をより重視しなければならないという方向性が見て取れる。第1次石油危機のころまでは、地方から三大都市圏への人口流入が続いた。これを食い止めるため、当時の国土政策は、地方への分散を進めることが基本となった。
しかしその後は、地方からの人口はもっぱら東京圏のみに流入するようになった。大阪圏、名古屋圏の転出転入は、ほぼ均衡するようになったのだ。その後バブルの崩壊時に一時的に東京への人口流入は止まったが、その後再び地方人口の東京圏のみへの流入が続いている。これは、日本の産業構造が知識集約型・大都市型へと明確にシフトしたことを反映している。
東京の存在感が高まるというトレンドのなかで、いま街の景色が目に見えて変化しだした。今後は、新たな国家戦略特区の枠組みなども活用することが可能になる。そうしたなかで、「羽田・東京・成田の高速鉄道が建設される」、「羽田の国際化が本格的に進む」、「都心交通の二十四時間化が実現する」、「新虎通りが日本のシャンゼリーゼ通りになる」、「東京の五つ星ホテルが画期的に増える」……こうしたワクワク感が生まれようとしている。
2020年までは長期の景気拡大
オリンピック・パラリンピックの開催は、アベノミクスに対して本格的な追い風をもたらす。オリンピックの経済効果は、控えめに見ても従来の指摘の7倍はあることが明らかになった。しかしこうした効果は、この機会を利用して国内改革を進めるという、強い政治的意思があって初めて実現できるものだ。待ちの姿勢からは、何も生じない。建設需要の拡大などが生じて100万人の雇用効果が見込まれるが、それを可能にする労働市場の改革がなければ結果は生まれない。オリンピックのもつセーブ・フェイス効果を活用して、これまで滞ってきた規制改革が一気に進むことを期待したい。
戦後最長の景気拡大は、小泉改革の時代の73カ月だった。今回の景気の谷は2012年11月であったと考えられる。したがって、小泉景気並みの長期拡大を続けることができれば、今後2020年のオリンピックまで景気拡大を続けることが可能、ということになる。そうなれば、安倍内閣が戦後最長の政権になる、という可能性も見えてくる。この際そうした強い意欲をもって、アベノリンピックという好機に挑んでもらいたい。オリンピック・パラリンピックの開催という求心力が働くこの時期に、2020年をめざした包括的な改革プログラム「改革2020」を作成し、整合的な改革を進めることができれば、アベノミクス第3の矢はさらに飛躍することになる。
(Voice2014年3月号より)
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