竹中平蔵氏の描く「2020年の日本の景色」 竹中平蔵氏が語る東京五輪の経済効果(下)
東京の景色が変わる
アベノミクスがもたらした1つの効果は、日本経済の「景色」を変えたことだ。日本の株価は過去1年で66%も上昇した(11月末時点)。主要国のなかで、群を抜いた上昇幅だ。3本の矢とされる各政策は、まだ一部を除いて本格的に効果が出るような状況にはないが、経済に対する政治的スタンスの変化が、市場における「期待」の変化となって表れている。そもそも景気という言葉は、鴨長明の『方丈記』に登場する言葉で、文字どおり「空気の景色」を意味する。この1年、日本経済の景色が変わるという予感が一気に広がった。
もっとも、アベノミクスの今後には難問が待ち受ける。
3本の矢、すなわち(1)デフレ克服のための金融緩和、(2)機動的な財政政策(短期:財政拡大、中期:財政再建)、(3)成長戦略、のうち、(1)の金融政策については実施中、(2)の前半の財政拡大についても実施中だ。しかし(2)後半の財政再建と、(3)の成長戦略はまだ仕掛け中、といわねばならない。2014年は、まず(1)金融政策の成果が本当に出るのか、問われる一年になる。そしていよいよ②の後半(財政再建)と(3)成長戦略について、政権の本気度を示さねばならない。その意味では、まさにアベノミクスは正念場を迎える。
そうしたなかで、「期待」という漠然とした経済の景色を、より具体的でビジブル(可視化された)なものに転換する大きなチャンスを迎えている。それはいま、東京の街が目に見える変化を始めたことだ。そこにオリンピック誘致による新たな変化を付け加えることができれば、期待先行の経済基盤はより明確に強化され、同時にそれは政権の基盤を強化することにもなろう。
東京の景色が変わりつつある、具体的な事例を2つ紹介しよう。財務省などが所在する政策の中心地虎ノ門から、新橋方面に向かう立派な道路が姿を現しつつある。いわゆるマッカーサー道路といわれたもので、第2次大戦直後から構想されていた幹線道路だ(現実にマッカーサーが計画したわけではない、といわれている)。この「新虎通り」は2014年度の完成をめざしており、沿道はファンシーな店舗が並ぶ「日本のシャンゼリーゼ通り」になると期待されている。
その幹線道路の真ん中に、六本木ヒルズに匹敵する床面積をもつ巨大ビルが建設されている。(株)森ビルによる「虎ノ門ヒルズ」だ。道路はここの地下を走るというユニークな構造で、またビルの最上階には日本に初進出する高級ホテルが入る予定だ。よく見ればこの道路の南は築地のオリンピック選手村に繋がり、北は赤坂から国立競技場に向かう。要するに、オリンピック道路なのだ。虎ノ門ヒルズに隣接して、バスターミナルを建設するという計画もあると聞く。あらためて気が付くが、東京という都市にはこれまで、まとまったバスターミナルがなかった。都市が大きく変わるこの瞬間は、従来できなかったこと、できないとあきらめていたことをゼロベースで見直し、一気に景色を変える絶好のチャンスになる。オリンピックを契機にこうしたプロジェクトが前倒しになれば、経済と社会に大きな変化を生み出すだろう。