竹中平蔵氏の描く「2020年の日本の景色」 竹中平蔵氏が語る東京五輪の経済効果(下)
オリンピックという「お白洲」
これに関連し政策決定のメカニズムとして、オリンピックという一定の「お白洲」効果を期待したい。
そもそも、政策は誰が決めるのか。政策決定論の永遠の課題だ。総理が決める、国会が決める、実質的に官僚が決める、世論が決める……。こうした指摘はすべて部分的に正しいが、決してすべてを包括的に言い表してはいない。この問題を考える重要なヒントが、政策決定に民間議員が多用されている、という事実に示されている。
いま、総理が議長を務める「経済財政諮問会議」「産業競争力会議」などが政策に強い影響力を与えているが、それぞれ5名(日銀総裁を含む)、10名の民間議員が任命されている。また、各省の審議会を含めると、民間人の数はそうとうのレベルになるだろう。こうした民間議員の最大の役割は、「お白洲」効果を演出することにある。あくまで筆者の造語であるが、霞が関や永田町の関係者の私的な会話には、しばしば登場する。
たとえば、規制緩和が期待されるある問題を、こうした会議で議論したとしよう。規制緩和を民間議員が求めた場合、関係官庁は存在する規制の有効性や正当性を主張する。これに対し民間議員は反論し、官庁が再反論……、これらを議事録を通して国民が見れば、規制緩和をせざるをえないという社会的プレッシャーが働く。そこで官庁は、やむをえず緩和の方向に進む。これが、お白洲効果のわかりやすい例だ。
筆者が強調したいのは、こうしたお白洲効果がまさにオリンピック・パラリンピック開催によって高まるという点だ。もちろん、そのためにはいくつかの条件が要る。最大の条件は、お白洲で丁々発止の議論がなされたとして、それを裁定する政治家が明確なリーダーシップを発揮することだ。賛成意見と反対意見を、足して2で割るようなかたちでは改革は進まない。忘れてならないのは、たんにオリンピックが開かれるから経済がよくなる、という単純なものではない点だ。セーブ・フェイス効果のポイントは、これを契機に世界に目を配りながら前向きの国内改革を進めること。それによって、結果的に経済が活性化するという点にある。その意味で、政治のリーダーシップに裏づけられた改革努力が伴わなければ、アベノリンピック効果は生まれない。
既述のように2013年6月に決定された成長戦略では、2020年までに実現すべきKPIが約30定められている。もしこれらがすべて達成され、結果的に経済財政の中期財政試算(8月8日公表)のように成長力が高まり、実質2%成長が達成されたとしよう。現状の潜在成長力が1%弱であることを考えると、アベノリンピック効果によって増加するGDPは、数十兆円の規模になる。これは、先に掲げた筆者らの試算(森記念財団・都市戦略研究所)を、さらに上回るものである。