海に漂う「プラスチックごみ」の深刻すぎる影響 生物の体内にも蓄積、使用量削減の必要性

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例えば、私たちがいろいろな国のペットボトルのふたを集めて分析したところ、半分くらいの国のペットボトルのふたからノニルフェノールという化学物質が出てきました。日本のミネラルウォーターのボトルのふたからは検出されませんでしたが、炭酸飲料のふたからは検出されました。酸化防止剤として添加されたものが分解したと思われますが、ノニルフェノール類には、内分泌かく乱作用があります。臭素系難燃剤の1つ、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)も海に漂うプラスチックから検出されています。PBDEも内分泌かく乱作用をもつ物質です。

注:内分泌かく乱作用を持つ物質は、環境ホルモンとも呼ばれる。生体内に入った際にホルモンの作用をかく乱する物質のことを指す。1996年、シーア・コルボーン著『奪われし未来』の指摘がきっかけとなり、化学物質による野生生物や人の生殖機能への影響が疑われる多くの事例が取り上げられ、懸念を広げた。ノニルフェノールは、魚の雌雄同体、人の子宮内膜症との関係が疑われている。

高田秀重(たかだ ひでしげ)/東京農工大農学部環境資源科学科教授。理学博士。1984年、東京都立大(現在の首都大学東京)大学院理学研究科修士課程修了後、東京農工大助手、アメリカ・ウッズホール海洋研究所、東京農工大助教授を経て、2007年から現職。60歳(撮影:河野博子)

もう1つは、海に漂うプラスチックは、周辺の海水中から有害な化学物質を吸着する、吸い寄せるという性質があるのです。

私たちが20年前に東京湾で実験を行い、2001年にアメリカの科学雑誌に発表した例があります。新品のPE製ペレットを東京湾沿岸に浮かべて経時的に採取したものを分析したところ、プラスチック中のPCB濃度が日を重ねるごとに上昇していました。

注:PCBは、人の健康を損なう恐れまたは動植物の生息・生育に支障を及ぼす恐れがある化学物質による環境汚染を防ぐための「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)が1973年に制定された契機となった物質。環境中で分解されにくく、油に溶けやすく、地球全体に広範囲に移動・拡散し、人の健康や生態系に有害な物質を規制するための「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約、2004年5月発効)」により、製造・使用・輸出入が原則禁止されている物質の1つでもある。

海を漂うプラスチックごみの危険性

海のプラスチックごみは、有害化学物質の「運び屋」。有害化学物質が生物の体に取り込まれ、蓄積されると影響は深刻。

――海に浮かぶプラスチックはどうしてPCBを吸着するのですか。

プラスチックは、石油という一種の油から作られているので、PCBのように油になじみやすい汚染物質がプラスチックにどんどんくっついてくるのです。

海を漂うプラスチックごみに有害な添加剤が残っていたり、周りの海水中から残留性有機汚染物質を吸着したりすることで、海のプラスチックごみは、汚染物質を運ぶ「運び屋」になっています。生物の体の中に有害化学物質を運び込んでいるともいえます。

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