サントリーが「ラグランジュ」を再生できた理由 「神の雫」亜樹直×椎名敬一「極上ワイン鼎談」
稀代のワイン評論家、遠峰一青氏がフランス・ボルドーで産み出された「シャトー ラグランジュ1996」を表現すると、なんとも豊潤なテイスティングコメントになる。遠峰氏はワイン漫画で世界的なヒット作となった『神の雫』の主人公、神咲雫のライバルだが、実はこれほどの素晴らしい味わいを生み出す名門「シャトー ラグランジュ」(シャトーは醸造所の意味)が、サントリーによって鮮やかな復活を遂げたことは、ワイン通以外には、あまり知られていない。
1ドル=230円台時代に買収を決断した佐治敬三
樹林ゆう子(以下、ゆう子) シャトー ラグランジュはすでに17世紀のワイン地図に名前が登場し、19世紀には当時のボルドー地方で公式格付をとっていたほどの名門でした。
しかし20世紀の大恐慌や第2時世界大戦などで、経営が非常に苦しい状況に陥ってしまいました。それをサントリーが手を差し伸べて、見事に再生したという経緯があります。シャトーを購入したのは、確か1983年でしたね。
椎名 はい。当時の為替レートは1米ドル=232円~246円の幅で推移していましたから、当時のサントリーからすれば、決して安い買い物ではなかったと思います。
ゆう子 どなたが最終判断を下したのですか。
椎名 当時、サントリーのトップだった佐治敬三(会長、1919~1999)です。実はサントリーは1972年に別のシャトーである、シャトー・カイヤベを買わないかという打診を受け、佐治敬三もそれにゴーサインを出したのです。
しかし、地元の人々の強い反対に遭って話が頓挫したという苦い経験をしました。当時は「アジアの企業がシャトーを買うなんてとんでもない」という雰囲気があったのでしょう。
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