ネットニュースに「動画の時代」がなお来ない訳 5Gで速度が圧倒的に上がるのは本質じゃない
――ネット動画は想定と違った方向に発展しつつある、と。
むしろ、従来のテレビ業界などのステークホルダーたちが、そういうテレビとインターネットの境目がなくなる未来を選ばなかった、とも言えるかもしれません。
例えば現在のテレビ番組は、何となくネットと連動はしていても、あくまでも本放送への誘導をメインに考えているのは明らかです。これは、ショートケーキ(本放送)を食べさせたいがために、クリーム(コンテンツの一部)をネットで少しなめさせてあげている状態にすぎないんですよね。
――明石さんはまさしく、自著『動画2.0』を始め、さまざまな場でそうした現状を指摘されてきました。
ネットで見る「動画」と、テレビなどで放送されてきた従来の「映像」は、本質的に成り立ちが異なるものです。
両者をきちんと区別して考えると、今まさにネットの「動画」の革命は静かに進行しているにもかかわらず、「映像」の世界に身を置いているとそれが見えにくい状況にあるのかもしれません。
そのためか、『動画2.0』を熱心に読んでくれている人には、テレビ局員や映像制作関係者が非常に多いんですよ。
5Gの到来でどんな変化が起きるのか?
――では、5Gによって、動画や映像を取り巻く状況はどのように変化するでしょうか?
5Gについて語るとき、「2時間のハイビジョン映画がわずか1.5秒でダウンロードできる」といった表現がよく使われます。僕自身もつい使ってしまう例えなのですが、実はこれは本質的な説明ではありません。
なぜなら、1本の映画をダウンロードするのに1.5秒かかろうが10秒かかろうが、これから2時間かけて見ようとしているユーザーにとっては、たいした差ではないからです。
本当に重要なのは、「そうした高速通信の先に何が起こるか?」です。僕は5Gの導入による本質的な変化とは、ネット動画で提供される情報の「解像度」が格段に向上することにあると考えています。
――「解像度が向上する」とは、どういうことでしょうか?
そもそも動画や映像は、画像の連続で成り立っています。映画であれば昔は1秒に15フレーム、テレビは30フレーム程度でした。これが1秒間に詰め込まれる画像(フレーム)数が多くなるほど、動画は細かく滑らかになり、生で見ている時の状態に近くなります。
かつて、ゲームセンターで『バーチャファイター2』が人気を博した時代がありましたが、この作品が革新的だったのは、それまで1秒あたりのフレーム数がせいぜい30程度だったものを、一気に60フレーム(60fps)にまで進化させたことでした。そのため、キャラクターの動作が非常に滑らかになっただけでなく、動画に“遅延”がなくなり、アクションゲームとしてそれまでにない体験をユーザーに提供できたわけです。