ネットニュースに「動画の時代」がなお来ない訳 5Gで速度が圧倒的に上がるのは本質じゃない
――これまでわれわれが見ていた動画には、遅延が生じているということでしょうか?
これまでは通信速度の問題で、解像度に限界があるだけでなく、視聴者のアクションに対する画面上のインタラクション(反応)にどうしても遅延がありました。ところが今後、その映像を届ける土管の部分が5Gになる。
すると、従来考えられなかったような高密度の情報を送受信できるようになり、ユーザーからすればよりスムーズにインタラクションを楽しめるようになります。こうしてユーザー側からのインタラクションを取り込むことができる点こそが、5G時代では重要なのだと思いますよ。
5G時代もネットニュースは「現状維持」が続く理由
――5Gによって、スポーツ中継のマルチアングル化にも期待が寄せられています。ニュースメディアでは、今後どのような進化が見込まれるでしょうか。
確かにスポーツコンテンツにおいては、応援するチームや選手の側に視点を置いて観戦するなど、マルチアングル機能は有意義でしょう。
でも、このニーズはニュースには当てはまりにくい。なので僕は当面、ニュースメディアは現状のままだと思います。
――それはどうしてでしょうか?
例えば、マルチアングル機能があっても、スタジオで話すキャスターをどこから見るかなんて、皆さんあまり関心ないですよね。そもそもニュース映像は、複数のアングルから撮影したベストなものを組み合わせて構成されています。ユーザーはその動画編集作業を委ねられても、デメリットしかないでしょう。
つまり、技術が進化したからといって、すべての領域がその恩恵を受けるわけではないということです。
実際、これだけITが普及しても、新聞はさほど大きな進化を遂げていません。ネットニュースも同様で、見出しと本文と写真で構成された記事コンテンツが、どこかのドメインで配信されるという形態は、今後も変わりようがないでしょう。
――では、情報を受け取るユーザー側の体験はどう変わるでしょうか?
動画を見たくて動画を見ている人なんて、まず存在しないというのが僕の持論なんです。
現在、ユーザーの多くは、「@(アットマーク)」か「#(ハッシュタグ)」を追っているに過ぎません。要は、SNSで自分が興味のある人(@)や関心を持つ特定の事柄(#)を見ているだけなんです。
たまたまその中に、テキストもあれば動画もあるというのが実情で、5Gになったからと言って必ずしも動画ですべてを賄う必要はないんですよ。特にニュースというのはインフォメーションですから。