上皇さま、知られざる「企業ご視察」の内幕

数十人の中小企業を回られることもあった

2011年10月に視察された研磨装置メーカーの不二製作所(東京都江戸川区)は、その年の3月に経産省中小企業庁から最初の連絡があって職員数人が訪れた。この時点では用件は示されず、会社の様子や景気などを聞かれた。ところがその直後に東日本大震災が発生。企業視察の準備は、4月に地元の小松川警察署から聞かされて知った。

当初は5月ごろの訪問予定だったものの、震災後で状況が流動的になり、結局、8月に「10月に視察」と決まったという。その間、中小企業庁や関東経産局、警察、消防、区役所と協議を重ねた。
  
2012年7月に視察があったメトラン(埼玉県川口市)は、経産省より先に地元の川口警察署の警察官の訪問を受け、視察を知らされた。もっともそのときは「あくまでも候補のうちの1つ」との説明を受けたという。同社は南ベトナム(当時)の留学生だったトラン・ゴック・フック氏(新田一福氏)が創業した新生児用の人工呼吸器メーカーで高い技術を持つ。

2010年6月の視察先となった医療器具メーカーの河野製作所(千葉県市川市)では、「自社の微細技術による医療器具がものづくり大賞を受賞したことが選ばれた理由ではないか」と当時の副工場長だった三橋謙二氏は話す。顕微鏡を使った世界最小の手術針の製作工程に関心を示され、顕微鏡を長い時間のぞかれたという。

社員にとっては生涯忘れられない感激の会話

視察先でのスケジュールは、どの企業でもほぼ同じだ。代表者(会長あるいは社長)の説明を受けながら1時間ほど社内を視察。その後、社員との懇談会が20分ほどある。10~30人ほどの社員が、上皇さまと簡単な言葉を交わす機会を持つ。経営者だけでなく社員との懇談は上皇さまのご希望である。上皇さまからは「それはたいへんな仕事ですね」「重要なお仕事ですね」「どのくらいそのお仕事をされていますか」といったお言葉が掛けられることが多いという。社員にとっては生涯忘れられない、感激の会話となる。

不二製作所の間瀬恵二会長は、「ご視察は社員にとって大きな励みになった。顧客からの信頼度が増すなど、実際の営業面でも効果があった。中小企業への目配りはありがたい」と話す。メトランのフック氏は「従業員40人の小さな会社に来てくださり、地元・川口市の企業や取引先企業にも自信を与えてくださった」と振り返る。

令和はまだ始まったばかりで、宮内庁のHPに天皇陛下の企業視察はまだ掲載がない。平成の時代は、前述のように「ものづくり企業」が中心だった。別の言い方をすると「ものづくり」に過度に偏っている。日本経済の産業構造の転換を考慮すると、今後は、ITやAI(人工知能)、あるいは新しいサービスを生み出した企業が視察先になってくる可能性もある。

『週刊東洋経済』9月14日号(9月9日発売)の特集は「いま知っておきたい 天皇と日本史」です。
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