「国民安全保障」の問題を徹底的に考えてみた

自らの問題を直視して確保する努力が必要だ

ところが、人権意識が高まり、国民の政府に対する要求が反映されやすい現代において、政府が軍人に十分な水準の補償を提供することは容易ではない。

とりわけ、冷戦後の国際社会で、積極的な海外での軍事介入を続けるイギリス軍の場合には、アフガニスタン戦争やイラク戦争でイギリス軍人の犠牲者数が増加する中で十分な説明を行うことは、容易ではなかった。

それぞれの国で、それぞれの難しい問題を抱えている。国家形成や国民統合の形に応じて、それぞれの国で政軍関係が抱えている問題も異なる。換言すれば、政軍関係に光を当てることで、それぞれの国の国民統合の様相をより深く理解できるのではないだろうか。そこに、現代政治において政軍関係を論じる重要性が示されている。

「国民安全保障」の構想

国民統合の1つの態様として政軍関係を考えることは、安全保障問題を国民が自らの問題として包容することを意味する。「ナショナル・セキュリティー」という言葉は、これまで日本語では「国家安全保障」と訳されてきた。それが、「国家」の問題、すなわち政府の問題として矮小化されて、「国民(ネーション)」自らが考えるべき問題として、直視することを避けてきた傾向が見られる。

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国民が自らの問題として防衛問題を直視せずに、自衛隊という「実力組織」にその判断を委ねてしまうとすれば、望ましい政軍関係が育まれないであろう。

冷戦後に日本国民が経験した、湾岸戦争も、オウム・地下鉄サリン事件も、対テロ戦争も、東日本大震災も、いずれも「ナショナル・セキュリティー」が脅かされる経験であった。問題は、そのような危機を直視して、国民の安全を確保するために、はたしてどのような措置をとることが望ましいのか、そして自衛隊がどのような活動を行うことが必要なのかについて、十分な議論が深まってこなかったことである。

国民が自らの問題として、安全保障問題を直視して、自らの問題として安全を確保する努力を行うこと。歴史比較と国際比較の2つの座標軸を用いて、問題の本質を抽出するとともに、今後の日本が進むべき針路について考える必要がある。

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