「国民安全保障」の問題を徹底的に考えてみた 自らの問題を直視して確保する努力が必要だ

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「軍からの安全」を過剰に求めた結果、「実力組織」である自衛隊は軍事組織が備えるべき機能のいくつかを奪われて、実効的な運用を行ううえでの障害が山積していった。

いずれの場合においても、軍事組織と国民との間に、十分な信頼関係が醸成されなかったことが、摩擦や機能不全の原因であった。

さらに、「政治からの安全」もまた、日本型政軍関係を理解するうえで重要な視点となるだろう。すなわち、作為であれ不作為であれ、「誤った政治」が国民の安全を損ない、軍事組織の活動を歪めることがある。そのような政治の介入から、職業的で中立的であるべき軍事組織を守ることもまた、重要となる。

とりわけ、ポピュリズムが苛烈となり、さらには宗教過激派が政治権力を握ることもある現代世界においては、「政治からの安全」という視角は重要であろう。

国家形成と政軍関係

なぜ政軍関係が重要な問題なのか。それは発展途上国においては国家形成と政軍関係の発展が緊密に結び付いているからである。

問題は、民主化への移行後に、軍隊が政治権力を文民政治家に戻すという「民政移管」が実現するか否かである。逆説的にインドネシアでは、国民から軍事組織が高い信頼を得ていることで、政府が十分に軍隊を統制できないことである。国家建設と国民統合が軍事組織を中核に実現した場合には、とりわけその傾向が強い。

他方で先進民主主義国として、政軍関係における1つの模範と見なされることも多いイギリスにおいて、新しい種類の問題が浮上している。イギリスもまたインドネシア同様に、17世紀のイングランド内戦の時代の国家形成の頃に、議会勢力の擁護者として陸軍が成立した経緯がある。国家形成と国民統合、そして国軍建設は、緊密に結び付いている。

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