「国民安全保障」の問題を徹底的に考えてみた 自らの問題を直視して確保する努力が必要だ
問題は、自衛隊の憲法上の位置づけについて不安定な状態を解消するために、憲法改正が必要かあるいは不必要かと、政治的立場が分裂していることである。 2012年に自民党が発表した憲法改正草案において、9条2項を次のように改正することが提唱されている。
「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」
この自民党の憲法改正草案では、1954年に吉田茂政権下で設立された自衛隊を、「国防軍」という名称に変更して、いわゆる一般的な軍事組織へと変貌させることが提案されている。現在の自衛隊の規模、予算、装備、任務を考えたときに、いつまでもこれを「軍隊ではない」と言い続けることは確かに不自然である。
それでは、国民はこの問題をどのように考えているのか。2018年4月にNHKが行った世論調査では、「今の憲法を改正する必要があるか」という問いに対して、「改正する必要があると思う」と答えたのが29パーセント、「改正する必要はないと思う」と答えたのが27パーセントと、ほぼ拮抗している。
他方で、「どちらともいえない」と返答したのが、最も多い39パーセントで、「わからない」と答えたのが5パーセントであり、これらを合計すると44パーセントが、態度を保留している。
いわば、日本国民の多くは、自衛隊の活動に高い信頼を置いているのに対して、自衛隊が軍隊であるかどうかという問題については、態度を決めかねているといえるだろう。これから日本が、どのような危機に直面するのかわからない。
1990年の湾岸戦争も、1995年のオウム・地下鉄サリン事件も、2001年の9.11テロも、2011年の東日本大震災も、日本国民の多くを驚愕させた。安全保障上の脅威は、見えないところからやってくる。そろそろ日本国民も真剣に、自衛隊のあるべき姿を考え、結論を出さねばならなくなるであろう。議論の引き延ばしはもはや、限界である。
政軍関係という宿痾
2018年は、明治維新150年を記念する年であった。過去150年間、日本は政軍関係の問題に対する苦悩を続け、その問題への望ましい答えを導けないでいる。
戦前においては、明治憲法の下で、陸海軍の統帥権は天皇にあるとされていた。いわば、憲政上、内閣が陸海軍を統制することが困難なのであって、政府と軍事組織との関係をめぐってさまざまな試行錯誤が行われてきた。
最終的に、真珠湾攻撃に始まる太平洋戦争を経て、日本は連合国に無条件降伏を喫して、明治憲法体制は崩壊する。だが、明治憲法体制の崩壊をもって、政軍関係をめぐる日本の問題が解消したわけではなかった。いわば、近現代の日本の歴史において、政軍関係をめぐる問題は宿痾(しゅくあ)の如く、繰り返し痛みを伴った困難をもたらしたのである。
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