新手の国外不正送金「マネーミュール」の闇

求人サイト応募でいつの間にか資金洗浄に加担

送金金額の10%が報酬……

同県内に住んでいた容疑者Aは、実質的な失業状態にあり、昨年10月、ネット上の求人サイトに登録した。すると、Aの元に一通の求人案内のメールが送られてきた。文面は英語。内容は「仕事はあるので、まず運転免許証番号をメールで返信してほしい」というものだった。

Aは指示されたとおりに、自分の免許証番号を返信した。その後、同じように個人情報の送信を求められ、それに応じるメールのやり取りが繰り返された後に届いたのが、振り込まれたカネを海外に送金するという“仕事”だった。

「送金金額の10%を報酬として渡す」

Aはその話に乗って、自らの預金口座情報をメールで返信した。程なく、Aの預金口座に計350万円のカネが振り込まれ、再びメールが送られてきた。

そこには、具体的な送金方法が指示されていた。銀行口座による送金ではなく、指定した外資系資金移動業者を利用せよ、というものだ。資金移動業者は国内で35社登録されており、銀行より手数料が安く、口座を開設しなくても海外に送金できるサービスもある。

ただ、指定された資金移動業者は、1支店で1日に受け付ける送金の上限金額を100万円と定めている。それを見越してメールには、栃木県内の支店に加えて埼玉県の支店など、送金に利用する店舗が細かく指定されていた。

Aはメールの指示どおり、自身の口座に振り込まれた350万円から、10%の報酬や交通費、送金手数料(50万円につき7000円)などの経費を引いた約300万円を送金。送り先は、ポーランド、トルコにある資金移動業者の取扱店だ。

資金移動業者は送金依頼を受け付けると、管理番号を利用者に知らせる仕組みになっている。送金をメールで指示していた人物は、Aから送られてきた管理番号を使って、ポーランドとトルコで現金を引き出した。Aに最初のメールが送られてから、現金が受け取られるまで、わずか10日程度の出来事だった。

Aからすれば、自分の口座を貸して海外送金を手伝っただけ。だが、これだけで犯罪に加担したことになる。

というのも、Aの口座に振り込まれたカネは、大手銀行や地方銀行のネットバンキングへの不正アクセスによって抜き取られ、Aの口座に移し替えられたものだったからだ。最初に送られた求人メールも、登録した求人サイトに不正アクセスして情報を抜き取って送っていた。

その後、銀行の口座から知らぬ間にカネが消えてしまった顧客が驚いたことは言うまでもない。慌てて銀行に通報し、銀行は不正送金された事実を警察当局へ報告。栃木県警は口座番号を基に、Aの身柄を確保した。Aは振り込まれたカネが犯罪収益だと知りながら、送金したことを罪に問われている。

では、Aに指示を出していたのは誰なのか。

Aの元に送られてきたメールのアドレスや一度だけかかってきた国際電話から、ロシア在住の人物の仕業ではないかとみられている。だが、指示に使われたアドレスはすでに抹消されている。国際犯罪という事情も加わって、今回の逮捕を足掛かりに警察が捜査の手を伸ばし、犯人を特定するのは容易ではない。

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