「ケインズの予言」の当たりとはずれの理由 「我々の孫たちの経済的可能性」から考える

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You Tubeに動画を投稿したりするのは、第4段階や第5段階、FacebookやTwitterなどのSNSで多くの友人とつねにつながっているというのは第3段階だろう。

スマホで子どもの現在地がわかり、安全性が増すなど基本的な欲求の満足度も高まってはいるが、近年は基本的な欲求に比べて高度な欲求を満たす手段が飛躍的に進歩しているのではないか。情報通信技術の進歩で高次元の欲求を実現する手段が飛躍的に進歩した一方で、最も基礎的な欲求は満たされてはいないということではないだろうか。

人々にとって最も切実であるはずの基本的な欲求が満たされる前に、高度な欲求を満たすほうに社会が進んでいるのは、人間が他の動物とは異なって基本的な欲求が満たされるだけでは十分だと思わないということがあるだろう。多くの人は衣食住が足りれば自由や人権といったものが無視されてもよいとは思わないに違いない。

所得や富の偏りの問題がある

加えて、市場経済では消費者が望むものは、それを求める人の数ではなくて、支出能力に応じて供給されることも大きな原因だろう。少数の大金持ちが個人で宇宙旅行をしたいと願えば、それを実現しようという事業者が出てくるが、多くの人が生活必需品を求めていても、ひとりひとりの所得が低ければ十分な量が供給されない。そこには、所得や富の分配に偏りがあるという問題がある。

ケインズだけでなくマルクスやシュンペーターらも、経済成長の終わりという問題を論じているが、働く必要がなくなり日々やることがなくて困ってしまうということは当分なさそうだ。需要が飽和してしまうという心配をする必要もないが、一方、生活の不安がなくなるという日も、まだ遠い先のことだろう。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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