「ケインズの予言」の当たりとはずれの理由

「我々の孫たちの経済的可能性」から考える

もう一つ、生活水準の上昇速度が低下している可能性もあるが、これには異論も多い。ロバート・ゴードン教授の『アメリカ経済 成長の終焉』(上・下巻、日経BP、2018年)のように、1970年頃から先進諸国経済の成長が鈍化しているという長期停滞論は、ローレンス・サマーズ元財務長官などの支持も得ている。

ゴードン教授らは、人類の生活水準を大きく改善する製品の多くはだいぶ前に発明されており、近年の新商品は情報通信関連のものに集中している。IT関連の発明は便利ではあるが必要不可欠ではなく、人々の生活を大きく向上させないというのである。

一方で、既存のGDP統計では把握されていないサービスの提供が急速に伸びており、これを正しく反映すれば経済成長はむしろ加速しているという見方もある。こうした見方をとる人は、情報通信技術の関係者に多いようで、技術の進歩によってわれわれの生活は劇的に変化しており、著しく便利になっている、と主張する。どちらの見方が正しいのか、議論の分かれるところだ。

「高度な欲求」の追求と「基本的欲求」の置き去り

筆者は、2つの対立する見方は両方とも正しくて、基本的な生活の改善速度が低下している一方で、人間の高度な欲求の充足度は急速に高まっているのではないかと考えている。

米国の心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」はマーケティングなどではよく使われるが、人間の欲求を図のような構造だと考える。高校の授業で習った記憶のある人も多いだろう。

最も基本的なのは、食欲や排泄欲、睡眠欲といった生命維持に不可欠な要素の充足である「生理的欲求」だ。第2段階が、病気や事故から逃れたいという「安全欲求」、第3は「社会的欲求」で、家族や友人、同僚といった集団に帰属したり、愛情を求める欲求だ。

さらに高度な欲求として、他人から尊敬され、認められたいという第4段階の「承認欲求」があり、最も高度な第5段階として創造性の発揮や自己啓発によって自己実現しようという「自己実現欲求」があるとする。

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