出口治明「死ぬときは自分の家で思い通りに」 人生「悔いなし、貯金なし」で終われば最高

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出口氏は55歳のとき、「遺書」を書いた。それが『生命保険入門』(岩波書店)というのだから面白い。勤めていた日本生命からビル管理会社に出向になったときのことだ。

「僕は50歳ぐらいになったら遺書を書いたほうがいいと思っています。人間は動物なので、極論すれば子育てを終えたら自分の役割を終えるともいえる。だから50歳ぐらいで子育てを終えたら、遺書を書いたらどうかと思うのです。

僕の場合はたまたま長く生命保険業界にいたので、『これが本当の生命保険や』というものを次の世代に引き継ぎたいと思いました。

生命保険は人間の進化と密接に関わっています。というのは、人間は進化の過程で頭が大きくなった。一方で二足歩行をするようになり、骨盤が小さく、産道が狭くなった。

そうすると、人間は未熟児すれすれの状態で生まれるしかないのです。ほかの動物は生まれて数時間で立ち上がりますが、人間は立ち上がれない。予定日に生まれても、人間は未熟児すれすれです。

だから、ほかの動物と違って子育てにものすごく時間がかかります。大人になるまでの長い間に、保護者に万が一のことがあった場合の担保として生命保険が生まれました。

だから基本的には子育てを終えたら生命保険はやめていいというのがグローバルな考え方だと思います。

こうしたことを、僕は日本生命で34年間働いて教わったり自分で学んだりしました。その後、ビル管理会社に出向になって、もう生命保険業界に戻ることはないだろうと思って遺書のつもりで書いたのです。そうしたら運命のいたずらで、またライフネット生命に戻ってしまいましたが」

思いどおりに死ねる社会を

出口氏はアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及を提唱している。欧米で始まった「患者の意思決定支援計画」で、「意識がなくなったらいっさい治療をしないでほしい」とか「意識がなくなってもお金が続く限り治療を続けてほしい」など、本人が元気なうちに意思表示しておくものだ。

「ACPの考え方の基には、僕の体験があります。すごくかわいがってくれた叔父がいたのです。その叔父が脳出血で倒れて、意識が完全になくなった。叔母は動揺して、『絶対に目を覚ますから』と、そんなにお金もなかったのですが、医者には『ありとあらゆる治療をしてください』と頼んで、ほぼ24時間添い続けました。

親族が何を言っても、医者が『意識は戻らないでしょう」と言っても、『そんなことはない』と聞き入れない。叔母自身が過労で倒れて初めて『もうええ』ということになりました。

その様子を見ていて、治療を続けるかどうかは本人以外は絶対決められないんだと痛感したのです。ACPを広めないといけないと思いました。

例えば40歳を過ぎた人が風邪や腹痛で医者に来た場合でも『ACPをやりませんか』と医者が勧めればいい。

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