留学生活で学んだ、「海」に漕ぎ出す勇気

社会的な評価よりも大切なこと

留学の意義

もちろん、日本で生まれ育ち、日本的な価値観を賛美して育った私にとって、このような変化は一朝一夕に起こったものではありませんでした。正直言って辛いことばかりでした。自分は日本の社会で生きていくことに居心地の良さを覚えていましたし、海外に出ないで日本で自己研鑽した方が、ずっとリスクは少なく、リターンも大きいのではないかと思ったこともありました。

そんなことを悶々と考えていたある日、英文学の授業のディスカッションで話し合ったことが、ものすごく腑に落ちたので、ご紹介したいと思います。

その日は、「白鯨」の第58章Britの最後の2パラグラフについて、学生7人と教授で話し合いました。その2パラグラフでは、ナレーターであるイシュマエルが、海の恐ろしさ、それとは対象的な陸での生活の穏やかさについて語っています。

参考までに、以下がその2パラグラフです。

 Consider the subtleness of the sea; how its most dreaded creatures glide under water, unapparent for the most part, and treacherously hidden beneath the loveliest tints of azure. Consider also the devilish brilliance and beauty of many of its most remorseless tribes, as the dainty embellished shape of many species of sharks. Consider, once more, the universal cannibalism of the sea; all whose creatures prey upon each other, carrying on eternal war since the world began.
 Consider all this; and then turn to this green, gentle, and most docile earth; consider them both, the sea and the land; and do you not find a strange analogy to something in yourself? For as this appalling ocean surrounds the verdant land, so in the soul of man there lies one insular Tahiti, full of peace and joy, but encompassed by all the horrors of the half known life.

 

ディスカッションでは先生が何か質問をするときもあれば、私たちが議題を用意することもありましたが、この日はただ“Discuss”という丸投げでした。

「え、そんな適当な」という空気が流れた後、ナレーターであるイシュマエル、(または作者であるメルヴィル)の読者へのメッセージについて話し合う流れになりました。

ルーシーがまず発言しました。

「この章だけを読むと、海の恐ろしさ、陸の平和さ、という対比から、イシュマエルは、穏やかな陸で過ごす人間は荒々しい海に出てはならない、というメッセージを送っているように思えます。」

先生が同意します。

「そうだね。平和な陸の上に住む人間は、わざわざ恐ろしい海に出て行く必要はない。メルヴィルが指摘するように、表面的には美しい穏やかな海を眺めているだけで十分だ」

ルーシーが続きます。

「ですが、The Lee Shoreの章では、イシュマエルは、海での生活の素晴らしさについて、まるで陸で生活する人間が知り得ない特権のように語っています。これは、この章から今話し合っているBritの章までの間に、イシュマエルの海に対する見方が変わったということなのでしょうか?この2つの章の間にある叙述を鑑みても、私にはそう思えないのですが…」

先生が答えます。

「素晴らしい指摘だね。他の皆はどう思うかな?はたしてここでイシュマエルは、陸の人間は海に出た方がいいと思っているのか、それとも陸の人間は海には出ず、平和な陸の上で暮らした方がいいと思っているのだろうか?」

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