留学生活で学んだ、「海」に漕ぎ出す勇気 社会的な評価よりも大切なこと

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こんな話をしている中で、フッと思い浮かんだ話がありました。そう、旧約聖書の失楽園です。

ぼんやりとこの2つの話をどう繋げようかと考えていたら、話が次に進んでしまいそうだったのでフンッと手を挙げて発言してみました。

「私はこの二つのパラグラフは、失楽園の話の中の蛇の誘惑と同じ働きをしているように思います。あえて、海の生活の大変さ、海に出た者にしか知り得ない事実をちらつかせることで、陸にいる人間に、『この海での生活を知らないまま、知らないふりをしたまま、ぬくぬくと過ごしていていいのか?』と問いかけているように思います。」みたいなことを話しました。

すると先生がまたコメントをしました。

「それは面白い解釈だね。そしてその視点は他の分野にも応用できる。例えば、この世の中は悲しいことで満ちている。私たちが一人では背負うことができないほどの多くの重い、悲しい出来事の「海」に私たちは囲われているんだ。しかし私たちは、それに目を向けず、平和な「陸」の上で過ごしている。君たちはその「海」に対して、いつまでも無関心でいられるか?無関心でいていいのか?一度「海」に出てしまえば、知ってしまったらもう心穏やかには暮らせなくなることに出会うだろう。それでも皆は「海」へと漕ぎだす勇気はあるのだろうか?」

海へ漕ぎだす勇気

私にとって、心穏やかに過ごせる「陸」は日本での生活、試練を与え続ける「海」は留学生活でした。そして、留学生活という航海の中で、一番大変でありながらも、一番多くを学べたのは、自分とはバックグラウンドが全く違う人と共同生活を送っていくこと、そしてお互いのことを理解しようという努力を続けたことのように思います。

日本にいたときには、似たような価値観を共有している人に囲まれて生きていたので、人との共通点を見いだすこと、人と信頼関係を築くことがさほど難しくありませんでした。一方アメリカに来てからは、自分とは価値観が違う人ばかり…というか、そんな人しかいないので、きちんと話し合わない限り、お互いに誤解を生んだままになってしまいます。

もちろん、一人一人と浅い関係を築くことも可能でしたし、問題に目を向けないことで、問題をないことにすることも可能でした。しかし、お互いのことをよく知ることを通して初めて、語学や科目の勉強だけでない、留学の醍醐味というものを経験できたように思います。お互いのことを知っていく中で、個人レベルでも社会レベルでも、日本にいたときには知らずにすんだような悲しい現実について知ることもありましたし、それにうまく対処できなかったことも多々あります。ただし、思い切って航海に出てみたことによって、荒々しい海の中を進む術を、少しずつ学ぶことができているように思います。

もちろんこの「航海」は留学だけには限りません。自分にとって大変な挑戦はどれも、大海原への航海といえると思います。未知の「海」に漕ぎだすことは、とても労力のいることですし、大変なことですし、自分を見失いやすくなってしまうことでもあると思います。ですが、だからこそ、自分の世界を大きく広げるきっかけになってくれるのだと思います。

そして、一度「海」に漕ぎだすことは、ゴールではなくスタートに過ぎないのだと思います。一度海に出た者が感じるのは、海を制覇できたという達成感ではなく、今後どれだけ挑戦しても、海の全貌をつかむことは決してできないという、ある種の敗北感だと思います。しかし、この無限の航海の可能性があるからこそ、人は海に惹かれてしまうのかもしれません。

さて、皆さんは、危険を顧みず、「海」に漕ぎ出す勇気はあるでしょうか?

(構成:アゴス・ジャパン 後藤 道代)

佐久間 美帆 米ウィリアムズカレッジ2年生

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さくま みほ

1992年生まれ。東京学芸大学附属高校卒業。2011年、東京大学文科一類合格。1学期間東京大学に通った後、同年秋から米国マサチューセッツ州のWilliams Collegeに入学。アゴス・ジャパンのホームページで「佐久間美帆のリベラルアーツカレッジレポート」を毎月更新
 

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