公的年金の「財政検証」をどう読み解くべきか 制度改正と個人の老後防衛の参考になる

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では、もう1つの幹である「足下(2019年度)の所得代替率を確保するために必要な受給開始時期の選択」は、何を意味しているのだろうか。

これは、スウェーデン政府が年金の年次報告書で公表しているものにならったもので、個々人の視点で自分の老後設計や年金受給を考える際に参考とするものだ。今回初めての公表となる。

具体的には、現在の高齢者(2019年受給開始、61.7%)と同じ所得代替率を維持するためには、自分は何歳まで引退(年金受給開始)を遅らせればよいかを世代ごとに示している。

長く働けば、年金額は維持できる

現行の年金制度では、標準的な受給開始年齢である65歳から、受給の時期を1カ月遅らせるごとに年金額は0.7%増額される(1年遅らせると8.4%増額、70歳まで遅らせれば42%増額)。受給開始時期は自由選択で、増額された年金は一生続く。これを利用して、現行制度のもとで何歳まで受給する時期を遅らせれば、足下の所得代替率が維持できるかを示したものだ。

結果は、ケース3では、現在20歳の1999年生まれでも、就労と受給開始時期を66歳9カ月と1歳9カ月分延ばせば、いまと同じ所得代替率を維持できる。ケース5でも、68歳9カ月と3歳9カ月延ばせばよいことがわかる。

この資料を基に、個々人の目線として、老後のライフスタイルや必要な年金給付水準を頭に描きつつ、その水準に達するには引退をどの程度遅らせればよいかをイメージすることが大切だろう。引退を先延ばしするためには、どのようなスキルや経験を新たに獲得し、高齢期に希望する就業を実現するのか。企業年金や私的年金をどう活用すべきかといった、高齢期の準備にもつながる。

言ってみれば、政府の制度改正とは別個の、個々人の老後設計・防衛への取り組みである。

今回の財政検証の結果をたたき台にして、政府は今後、年金制度改正案の策定に着手する予定だ。

もっとも、現行制度のままでも繰り下げ受給を活用すれば、所得代替率は維持できるからといって、制度改正をたなざらしとしては、本末転倒だ。個々人の取り組みと、政府・国民全体の取り組みの両輪こそが、超高齢化時代を生き抜く近道になる。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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