汚れた海「東京湾」は本当に回復しているのか 海洋環境専門家が実態を語る

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東京湾の環境が回復している、という側面について本当によく報道されています。しかしその回復が「本当に意味のあるものなのか」という検証や、「どこまでが事実なのか」といった正しい理解まで進んではいません。

そこで皆さんが日頃なんとなく抱いている印象と、乖離している実態、いわゆる「勘違い」について、ここで整理させていただこうと思います。

勘違い① 水質は近年になって改善している

近年、環境問題への取り組みが重視されてきた中、確かに東京湾の水質環境についても改善のためにさまざまな対策が取られてきました。

とくに流入する汚れの量(負荷量といいます)についての対策は進んでいて、汚濁のもとになるCOD(化学的酸素要求量。水中の有機物を酸化する際に必要となる酸素量を表し、高いほど汚染されている)の値は、この30年でなんと半分以下にまでなりました。

しかしながら流れ込む量は減っても、東京湾の海域で見た際、その水質が改善されているわけではなく、ここ25年、横ばいの状態が続いています。

これについては、いくつかの理由があります。ここではざっとしか述べませんが、水質の浄化に一役買う、浅場や干潟の大幅な減少が大きな理由として考えられています。

一方、長年の蓄積で海底に汚濁源が今も堆積しているため、ずっと栄養分過多の状態が続いていることもあるでしょうし、また、東京湾は閉鎖性の内湾なので、外海との海水交換もあまり行われないこともあります(ただしここでの汚濁は、栄養過多という意味で、化学的な汚染ではありません)。

つまり、これらの結果として東京湾の水質は再生が進んでいない、むしろ放っておけば、放った分だけ負の循環がさらに続く、というのが現状なのです。

1960年代は漁業が盛んだった東京湾

勘違い② 漁獲量は近年になって回復している

恵まれているその地形に加え、黒潮や湾に注ぐ大きな河川からの養分などの影響で、もともと豊かだった東京湾。それこそ大昔から1950年代まで、東京湾内での漁業は大変に活発でした。

そして漁獲量でいえば、そのピークはなんと1960年。それほど昔ではありません。

しかし当時19万トンまであった漁獲量も、そこから激減。今ではたった2万トンにまで落ち込んでしまいました。まさに劇的といえるほどの減少です。

この数字は、埋め立てや開発が進み、干潟や浅場の減少に伴って減り続け、実は環境への配慮がされるようになった現代にあってもほとんど回復していません。エビやカニに至っては、残念ながら今もほとんど漁業としては成り立たないような状態が続いています。

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