ウォーター・ビジネス 世界の水資源・水道民営化・水処理技術・ボトルウォーターをめぐる壮絶なる戦い モード・バーロウ著/佐久間智子訳~世界的な水資源危機に果敢な問題提起
久しぶりに読み応えのある書物に遭遇した。著者のモード・バーロウは20年以上にわたり水をめぐる環境問題に取り組み、世界中の水関係者に警告を与えている。
本書第1章では「世界的な水資源の危機」と題して、失われる淡水資源、汚染される表層水、枯渇する地下水の実態を、第2章では「世界の水道の支配をねらうグローバル水企業の戦略」と題して、水道民営化の悲惨な実態、さらに巨大な利益を上げるグローバル水企業の戦略を詳細に語る。
続く第3章では、水メジャーと呼ばれるフランス系企業と新規参入を目指すGE社やITT社の市場争奪戦を、第4章では「水の未来を左右する草の根ムーブメント」と題して、ラテンアメリカ、アジア太平洋、アフリカ、米国・カナダ、欧州の例を述べ、これらの国の人々と可能な限り手をつなぎ、資金や資源の連帯をはかり、民間の水道企業や責任を放棄している政府と闘っていかなければならないと述べている。
さらに最終章の第5章では、国際政治の主要課題として、多発する国際間の水戦争を防ぐために水条約を提唱し、「水に関する権利条約の締結をすべき」と結んでいる。
全章を通じて、まさに共感すべき事項が随所にちりばめられている。ただし長年、水問題に取り組んできた筆者の感想としては、水問題をイデオロギーで論議している姿勢や現行の科学技術の否定が気になる。
例を挙げよう。ダム建設は生態系に多大な悪影響を与え、とりわけ大きなダムは、淡水資源に深刻な脅威である地球温暖化を促進する。パイプラインの建設は野生動物と生態系を破壊する。さらに、すべての海水淡水化プラントで致死副産物が生み出されている、などといった表現が続く。
このあたりは読者の判断に任せるとして、異議を唱えたくなるのは、訳者(佐久間智子氏)の解説である。「日本の『ウォーター・ビジネス』をめぐる現状と問題」と称し、過去に翻訳した欧米の観点でコメントを述べる。たとえば、膜ろ過の浄水処理導入は、その技術と管理のノウハウを持つ民間に水道のコアを明け渡すことに等しいとか、途上国の支援では、高い水準の技術の提供が巨額債務を負わせ、生態系を破壊し、住民自治を困難にする、などなどだ。
はて、日本の上下水道関係者はそんなに脆弱なのか、また日本のODAは、途上国に害毒を流し続けているのだろうか。これらの問題提起に判定を下すためにも、水、さらには環境問題に関心がある人々に、ぜひ読んでいただきたい一冊である。
Maude Barlow
カナダ最大の市民団体「カナダ人評議会」議長。環境問題に関する著名な女性評論家であり、アクティビスト。1947年生まれ。「ブルー・プラネット・プロジェクト」の創始者で、アクティビストのネットワーク「グローバル化に関する国際フォーラム」や、NGO「フード・アンド・ウォーター・ウォッチ」の理事も務める。
作品社 2520円 291ページ
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