日本製中古車両の「聖地」ミャンマー鉄道の実情 鉄道インフラ輸出、大切なのは「人材教育」だ

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しかしMRは、気動車の故障はすべて工場の責任としているため、地方で故障した車両もすべてヤンゴンの気動車工場で修理しなければならない。そして地方に送り返してまた壊れる。その繰り返しになっていると千本松氏は説明する。MRの列車はもともと機関車牽引の客車列車がメインであり、地方の基地は気動車のメンテナンスを知らないのだ。

車両基地と工場双方の技術向上、そして車両基地への品質管理部門設置を提言したいと、千本松氏は締めくくった。

日本製新車をメンテできるか

車両の維持管理という観点では、途上国に適しているのは機関車牽引の客車列車ではないかと筆者は感じる。

気動車は増えたが、機関車牽引の客車列車も多数残る。決して日本の独壇場ではない(筆者撮影)

もともとMRは、安上がりなこの方式の列車を円借款で投入しようと主張していた。これに対し日本側は、機関車牽引だと終着駅での折り返し設備が必要となるほか、入れ換えや連結の手間と時間もかかり、将来の電化や速達化に支障することから気動車列車を主張し、結局気動車の導入が決まった。

導入される新型気動車は電気式(ディーゼルエンジンで発電機を回し、その電力によってモーターで走る方式)で、MRにとって初めてであるだけでなく、日本においても数少ない。機構が複雑で保守が難しい液体式に比べ、電気式は世界的に主流になっている方式ではあるが、「初モノ」だけに関係者の不安は募る。加えて、既存車両にはない冷房付き(日本製中古車両の一部に搭載されているが、メンテナンスできず使用停止中)でもある。

鉄道車両維持管理・サービス向上プロジェクトはこの先、検査体系の適性化を目指す「第2ステップ」、そして電気式気動車メンテナンスの基礎教育を実施する「第3ステップ」をもって終了し、その後に新車に対するメーカーによる技術指導が予定されているが、鉄道事業者なしに鉄道システムの海外輸出が進まないという典型的な事例でもある。

フェーズ1向けの新型気動車は24両の導入であるが、フェーズ2完成時には追加で180両の導入が予定されている。さらには「ヤンゴン環状鉄道改修事業」向けの通勤タイプの需要もあるが、まずは最初の24両が順調に走り出すことが必須である。

新車の到着まではあと約1年ほどだ。ミャンマーの人々がしっかり使えるインフラになるならば、正直なところどの国が製造した車両でもかまわない。しかし日本人としては、かの地で日本製の新型車両が順調に走り出すことに期待したいものだ。

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