日本製中古車両の「聖地」ミャンマー鉄道の実情 鉄道インフラ輸出、大切なのは「人材教育」だ

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東南アジアの国々全般に言えると思うが、学校教育の基本は教科書の暗記である。よって、現場作業者が自ら「考えること」が極めて少なく、質疑応答で手が上がらないということがしばしば起きる。

ヤンゴン環状線は軌道改良の真っただ中。一部区間は列車を運休して線路を敷き直しているが、ミャンマー側の予算で実施しているため、レールや枕木を流用しているなど不安要素は残る(筆者撮影)

しかし、メンテナンスは作業者が考えて判断することで初めて成り立つ。これが、車両メーカーの工場などでの組み立て作業と一線を画す部分だと千本松氏は言う。

メーカーでは部品を手際よく組み立てれば済むが、メンテナンスは古い部品と新しい部品が混在し、とくに消耗している部品は規定寸法に収まっていたとしても、技術的な根拠と経験の裏付けにより、交換すべきかどうかを判断しなければならない。

このような技術知識の上に観察、評価、施工のサイクルを回すことでメンテナンスの質や精度が高まっていくというのが千本松氏の考えだ。

「目先の対処」で済まさないために

そういえば、駅で列車を待っていたとき、しばしば日本の中古気動車から「プスプスプス……」という異音が聞こえた。明らかに何かが故障しているような音だが、とくに処置されている様子はなかった。

これは何の音なのか。素朴な疑問を千本松氏に投げかけてみると、正体は「安全弁の噴気」と呼ばれるものだった。エンジンの駆動力で作動する空気圧縮機によって圧力が高くなり続ける元空気ダメ(ブレーキなどに空気を供給するタンク)の空気圧が上がりすぎないように、安全弁から空気を逃がしている音だ。言わば安全弁は元空気ダメの破損を防ぐ最後の砦であり、本来はつねに噴気している状況であってはならないのだ。

このような事象に対して正しい判断を下すために行うのがトラブルシューティングだが、途上国の車両整備現場で散見されるのは目先の対処である。例えばこの場合は「勝手に圧力計を調整すること」が、それに当たるという。

これは「元空気ダメ内の圧力異常」という結果だけで導き出した誤った判断であり、原因を解決していないため、最悪の場合は元空気ダメの破損につながる。本来は、故障の可能性をすべて洗い出したうえで正しい判断を導き出さなくてはならない。

また、「安全弁の噴気」からMRの組織的課題も明らかになったという。これは大がかりな修繕でなく日常的な検査で発見すべき事象であるそうだ。つまり本来ならば、首都ヤンゴンの工場ではなく各地の車両基地で修理されるべきものだ。

次ページ「噴気」で浮き彫りになった組織の課題
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