日本製中古車両の「聖地」ミャンマー鉄道の実情 鉄道インフラ輸出、大切なのは「人材教育」だ
既存鉄道の改良は、日本の掲げる「パッケージ型鉄道インフラ輸出」が最も難しい分野だ。軌道や橋梁など、地上側設備を日本の手で改修しても、車両はいつの間にか他国製に変わっていたというのは往々にして起きる話で、これこそがわが国が長年続けていたハコモノ依存型のインフラ輸出である。
オペレーション教育を徹底し、人材を育てることはゼロからの新線建設にも共通しているが、既存の鉄道や組織にメスを入れるのは名実ともに「国鉄改革」になりうる大事業である。これこそが「パッケージ型輸出」の肝になる部分であり、ミャンマーにおける今後の日本のプレゼンスを占うものになる。
そんな中、2017年度からJICAによる技術支援として、「鉄道車両維持管理・サービス向上プロジェクト」が始まっている。これはヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業(フェーズ1)向けの日本製特急用気動車を導入する前に、最低限のメンテナンスが実行できるよう、ミャンマー国鉄の現場に指導を行うものである。
現場の最前線で指導にあたる、元国鉄マンを取材した。
「気動車のプロ」が支援
「現状のミャンマー国鉄の気動車は、進む・止まる、それに前照灯の点灯という部分しか機能させていない」と語るのは、日本コンサルタンツからメンテナンスの支援でミャンマー国鉄の気動車工場に派遣されている千本松正美氏だ。
ミャンマーの日本製中古気動車の稼働率は極めて低く、メンテナンス作業の不備や一部交換部品の欠如などの理由から、稼働率は5割程度。千本松氏は、今のまま新型車両を導入したらすぐに壊してしまうだろうと危機感を募らせる。
千本松氏は1984年に国鉄(現・JR)の工作局修車課に配属以来、車両整備の現場を歩んできた。気動車メンテナンスのプロフェッショナルであるだけでなく、海外における鉄道技術教育の第一人者でもある。海外の鉄道との関わりは、国鉄の分割民営化も間近な1987年、「東南アジアに輸出された日本製の気動車を修理せよ」という任務が舞い込んできたことから始まった。
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