「ノーサイド・ゲーム」視聴率では測れない凄み ビジネス度外視の熱さで男心を徹底的に突く

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ドラマを見ても、池井戸さんの原作を読んでも、過去作のようなエンターテインメント重視のムードは感じられません。それよりも、「ラグビーの現場で奮闘する選手やスタッフに救いの手を差し伸べたい」「そのために企業と(日本ラグビー)協会は真摯に向き合ってほしい」「世間の人々もラグビーや関係者たちを応援してほしい」という熱い思いを感じてしまうのです。

「『ノーサイド・ゲーム』を見て胸が熱くなる」という人が多いのは、主人公の君嶋に負けない作り手の熱い思いがあるからではないでしょうか。

「ノーサイド」が暗示する純度の高い結末

「ノーサイド・ゲーム」を好ましく見ていない人の中には、「どうせまたいつもと同じ下剋上の話でしょ」という人が多いようです。

実際、「左遷された君嶋が、社長の座を狙う滝川常務に挑む」「弱小のアストロズが常勝のサイクロンズに挑む」という図式は下剋上そのものであり、前述した池井戸さん原作の日曜劇場とほとんど変わりません。

ただ作品全体に漂うムードは、ラグビーを題材にしていることもあって、過去作よりもはるかに泥臭く、真っすぐかつ純粋。君嶋を筆頭に、アストロズを支援する社長の島本博(西郷輝彦)、アストロズ監督の柴門琢磨(大谷亮平)、キャプテンの岸和田徹(高橋光臣)など大半の登場人物が、苦境の中でも諦めず、泥臭くも真っすぐかつ純粋に突き進んでいきます。

一方の悪役も、これまでの池井戸作品に比べると過剰さがなく、社長の座を狙い、アストロズを潰そうとする常務の滝川も、サイクロンズ監督の津田三郎(渡辺裕之)も、「見るからに悪人」というより、自らの信念に向けて突き進む人物に見えます。

もともとタイトルの“ノーサイド”には、「戦いを終えたら両軍を分けるサイドが消え、同じスポーツに励み、時間を共有した仲間になる」という意味があります。その意味で、君嶋も滝川も、アストロズもサイクロンズも、わかりやすい善悪や上下の区別は必要なく、ラグビーを通して最後には打ち解けられるのかもしれません。

もしかしたら「ノーサイド・ゲーム」というタイトルは、「これまでの池井戸作品の日曜劇場とは違うよ」というメッセージではないでしょうか。

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