「ノーサイド・ゲーム」視聴率では測れない凄み ビジネス度外視の熱さで男心を徹底的に突く

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現状、企業も選手も「あまりお金にならない」「地位や名声が得られにくい」「ケガなどのリスクが高い」、ラグビーというスポーツに打ち込むのは、ビジネスというよりも“男のロマン”にすぎません。君嶋の妻・真希(松たか子)がそうであるように、「何でそんなものに人生を懸けるの?」「痛い思いをしてまでやる意味がわからない」と女性層の支持を得られにくいところがあります。

その点、ドラマの題材にラグビーを採用したのは、関係者にとって大きな決断でした。近年、「視聴率獲得」「スポンサー受け」などの理由からドラマ枠のほとんどが女性視聴者をメインターゲットに据え、彼女たちの共感を得られるような物語を優先的に制作しています。

そのような風潮がある中、ラグビーを題材にしつつビジネスを絡めた「ノーサイド・ゲーム」のメインターゲットは、どう見ても男性層。また、劇中には予想以上にラグビーのプレーシーンが多く、男たちが声を張り上げ、肉体をぶつけ合うことで“男のロマン”を追い求める姿が描かれています。

このような男性層向けの題材や映像であるうえに、武骨な男ばかりでイケメン俳優が登場しないこともあって、必然的に女性層の支持が得られにくくなってしまいます。ただ作り手たちは視聴率が過去作を下回ることは想定内であり、それを承知で放送に踏み切ったのではないでしょうか。

女性層向けのドラマばかり量産される中、低視聴率のリスク覚悟で男性層のニーズに応え、さらに前述した「ラグビーワールドカップ2019」を放送する他局へのアシストも含めて、随所に制作サイドの心意気を感じてしまうのです。

ドラマ史に残る迫力満点のプレーシーン

「ノーサイド・ゲーム」のチーフ演出を務める福澤克雄監督は、知る人ぞ知る学生ラグビーの名選手。それだけにラグビーシーンの臨場感は格別であり、第5話のアストロズvsサイクロンズの試合は約20分もの長時間にわたって放送されながら、「ドラマであることを忘れそうになった」という声が上がるなど、まったく飽きさせませんでした。

ラグビーに限らずスポーツを題材にした作品は多いものの、ここまで迫力のあるプレーシーンは「数年に1度しか見られない」というレベル。基本的にドラマの撮影は、1つのシーンをさまざまなアングルから繰り返し撮影することが多いだけに、選手役の俳優たちにとっては、通常の試合よりも肉体・精神に負担がかかるものです。

その点、「ノーサイド・ゲーム」は福澤監督らプロフェッショナルによる技術と努力によって、「現実の試合中継よりも迫力のあるプレーが見られる」と言ってもいいかもしれません。

また、単なる勝ち負けにとどめず、ハイレベルなプレーや戦術分析を織り交ぜたこと。それを実現させるためにラグビー経験者を大量にキャスティングしたこと。ラグビーの盛んな東京都府中市でロケをしていること。これらはラグビー経験者である福澤監督の“男のロマン”にも見えます。

池井戸さん、福澤さん、キャストなど、男たちの熱い思いとロマンを込めた作品だけに、クライマックスで得られるカタルシスは、視聴率という数値では計り知れないものがあるでしょう。ひたすら男たちの戦いを堪能するのもよし。まもなく開幕する「ラグビーワールドカップ2019」の予習として見るのもよし。残り約1カ月の放送に注目してみてはいかがでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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