パスワードに阻まれて途方に暮れる遺族の現実 亡くなった家族のスマホの中身は見られる?

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しかし、デジタル資産に関わる業界は今まさに過渡期といえるため、これからスマホ普及率が高まるに従い、判断が難しいケースは増えていくのかもしれない。

最近はスマホで写真を撮ることが多くなったため、家族の思い出の写真がスマホの中に残されたまま持ち主が亡くなり、二度と写真が見られなくなってしまうケースが増えている。思い出関係の事例を見てみよう。

【事例3】妻の姿を息子の記憶にとどめたい

東京都の男性Cさん(30代)は、妻を33歳の若さで亡くした。その2年後、自分のスマホの中の写真をバックアップしようとしたが失敗し、全部消去してしまった。

Cさんは、妻がiTunesに写真データを保管していたことを思い出すとともに、「亡くなった妻が遺したスマホになら、同じような写真が保存されているはず」と思い立ったが、妻が遺したスマホのパスワードはおろか、iTunesのパスワードもわからない。

Cさんは、現在8歳の娘に、「ありし日の母親の姿をたくさん見せてやりたい」「母親の記憶を薄れさせたくない」との思いから、デジタルデータソリューションに相談。同社はiTunesのパスワード解除を提案し、エンジニアは作業に入った。

しかし、同社の解析ツールをもってしても、復旧はかなわなかった。

なぜなら、パスワード解析の際に鍵となるデータが見つからず、総当たりするしかなかったのだ。パスワード総攻撃となると、4桁の英数字のみのパスワードは36の4乗とおり、4桁のアルファベットパスワード(大文字・小文字)の場合52の4乗とおりもあり、時間的コストを考えると、断念するしかなかった。

【8月31日16時20分追記】初出時、パスワード解析にかかわる計算の一部表現に誤りがありましたので表記のように修正しました。

このように、スマホ・パソコンのデータ復旧や分析・鑑識サービスに対応している企業であっても、スマホやパソコンのロック解除の成功率は100%ではない。

ならばどうすればよいのか。デジタル遺品問題を研究しているライターの古田雄介さんに聞いた。

「いちばんの対策は、持ち主が普段からスマホのパスワードを紙にメモして実印等と一緒に保管しておくことです。そのままだと盗み見られる不安がつきまとうので、パスワード部分を修正テープを2回以上走らせてマスキングしておくとよいでしょう。クルマや家のスペアキーを自作して備えておく感覚です」

いざというときに家族が開く。その前提でスマホを使っていると、見られたくないデータを別の場所に保管したり、家族写真などは家族と共有するような意識が自然と出てくる効果もあるという。

「余裕があれば、その延長線上でいまあるデジタル資産を整理するのもいいでしょう。とくにネット口座や定額サービスの契約など、お金絡みの契約は所在をしっかりしておくに越したことはありません」(古田さん)

家族は、とくにお金関係、思い出関係のものを必死に探す傾向がある。

隠しておきたいものがある人はなおさら、自分が万が一のときに残された家族が必要とするものは、見つけやすいようにしておいたほうがいいだろう。一方で、隠しておきたいものは入念に隠しておく。

本来なら家族が知らなくていいものまで見つかってしまった場合、亡くなった後では言い訳ができないということを、肝に銘じておきたい。

旦木 瑞穂 ライター・グラフィックデザイナー

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たんぎ みずほ / Mizuho Tangi

愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する記事の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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