パスワードに阻まれて途方に暮れる遺族の現実 亡くなった家族のスマホの中身は見られる?

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エンジニアが調べたところ、ノートパソコンはMac製だが筐体がかなり古く、OSが正常に起動しない状態。ログインパスワードも不明だった。

そこで筐体を分解し、ハードディスクを取り出して、同社特殊ツールにてパスワードの解析に成功。ショートメッセージやLINEのやりとり、ウェブの閲覧・検索履歴などを抽出したところ、ネットバンクと株を運用していた形跡が確認できた。

一部文字化けしてしまって解読できない部分もあったが、接続したことのある無線ネットワークや通話履歴、メールの相手先などがわかり、株取引のためインターネット証券を利用していたことや、ネットバンクに口座があることが判明。

口座番号はわからなかったが、大抵の金融機関や証券会社は、法定相続人からの連絡があれば、必要な書類や手続きの仕方を案内してくれるので、もしものときは問い合わせてみてほしい。

とはいえ、せめて家族がどこの口座を持っているかくらいは、生前に把握しておきたい。

スマホやパソコンには、所有者の生活や趣味など、多くの個人情報が詰まっている。もしかしたら、家族や恋人、友人でさえ知らない一面を、スマホやパソコンは知っていると言えるのかもしれない。

金銭関係に色恋関係が絡んだ事例を紹介しよう。

【事例2】夫の死後に謎のメッセージが…?

福岡県の女性Bさん(50代)は、夫が亡くなった後、夫が遺したiPhoneのロックを開けなかったので、息子に相談した。息子はパスワードを解読し、ロック解除に成功。中を見ると、あるチャットサービスに、夫の仕事仲間だった女性から、「ご冥福をお祈りします」という内容のメッセージが届いていた。

Bさんは不審に思いつつも、既読を付けずにしばらく静観することに。すると、毎日のように同じ女性からメッセージが届く。「何で私をおいて先に死んでしまったの?」「私のもとに帰ってきて」などといった悲嘆に暮れる感情を吐露するものとともに、Bさんには意味のわからない内容のメッセージが次々に送られてきた。中には、夫の遺産相続に関する内容のものも紛れている。

そこでBさんは同社に相談。担当者は、チャットサービスの全メッセージの抽出を提案した。同社のエンジニアは、特殊技術(非公開)にて復旧に成功。約半年間にわたる夫と女性とのやり取りを、既読を付けない状態で全抽出できた。

結果、メッセージの内容から、どうやら夫は、Bさんに内緒の銀行口座を持っており、女性はその銀行口座から夫の資産を着服している可能性があることがわかった。

夫と女性は、何度か仕事だと言って2人で出かけており、Bさんは薄々浮気に感づいていたという。しかし、隠し口座の存在や着服の可能性あることが判明したことで、Bさんは弁護士を立て、女性を相手に戦う意思を見せている。

ただ、家族が残したデジタル資産を扱う際に注意しておきたいのが、不正アクセス禁止法に抵触するおそれがあるということ。不正アクセス禁止法は、契約者本人の許可なく、ID・パスワードなどを無断で入力する行為などを禁止する法律だ。

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