エマニュエル:同様に肉屋、魚屋、チーズ屋も閉まっているので食料の調達は、大手チェーン店のスーパーに頼るしかなくなる。日本の人はスーパーが開いてるならそれでいいじゃないかと思うかもしれないけど、スーパーのバゲットとパン屋のバゲットの差は結構大きいんだよね。
夏の間に従業員がバカンスでいなくなるときは、単純に供給量を下げるわけだけど、客もバカンスに出かけていて需要が下がっているので、均衡は保たれてはいる。だから8月にパリで生活するのはなかなか難しくって、いわばバカンスに出かけないパリジャンには罰を与えるって感じかも。
スポーツクラブなんかも夏は営業時間が変わる。僕が行っているテニスクラブは普段23時に閉まるんだけど、8月中は19時に閉まる。バスや地下鉄など交通機関の頻度も夏の間は少なくなるしね。これに関しては、パリジャンだけでなく、観光客も不便を感じるだろうね。
緊急時には「署名の委託」を活用
くみ:メトロやバスなどの公共交通機関が少なくなるのは本当に大変。8月はバカンスシーズンでパリを離れるパリジャンも多いけど、世界中からパリにやってくる観光客はもっと多いから、暑いうえに公共交通機関が混雑することはよくある。レストランが8月休みのところが多いのも困るかな。日本から来客があっても、名だたるお店はほぼ閉まってると言っても過言ではないから、8月のお店選びには本当に苦労する……。
エマニュエル:それじゃあ企業や行政機関は8月の間どうやって機能し続けるのか。とくにフランス以外の国にも展開するような企業ならばバカンス中といえど処理しなければいけない仕事はあるし、行政機関ならば、「公共サービスの継続」という1月1日から12月31日まで一年中国民が利用できるようにしなければならないものがある。
この解決法も、さっきのお店の場合と同じく、供給を減らすというもの。この場合だと、営業時間や開館時間を短縮したり、顧客への返答を遅らすといったようなことかな。それでも、何か緊急に処理しなければいけない仕事がバカンス中に起きた場合はいったいどうするかというと、「署名の委託」と呼ばれるシステムがフランスの社会では主に取られている。
担当者が不在の場合は引き継ぎの担当者の順序をあらかじめ決めておき、その順序に従って仕事を引き継ぎ、重要な決定や署名を行う。Aが不在の場合Bに引き継ぎ、Bが不在の場合はCが引き継ぐというふうに。誰がどの時期にバカンスを取るかはわかっているので、自分が引き継ぐであろう仕事はある程度前もって準備しておける。