くみ:バカンス期間中の空き巣はよく聞く。パリに暮らす日本人でも夏休みで不在中に入られたというのを何度か聞いたことがある。近所の人や親しい友人、親戚に植物の水やりやペットの世話を頼むというのも聞いたことあるけど、パリに数年だけ赴任で来ていたり、しかも単身でとくに仕事以外でそこまで親しい友人を作るのが難しかったりしたら、家を空けるときに誰かに頼むのは難しそうだね。
でも、あらかじめ言っておけば警察が重点的に見回りをしてくれるというのはあまり意識していなかった。それは心強いよね。
インターンや外国から医者を呼ぶことも
エマニュエル:では、医療はどうかと言うと、8月は病気には絶対にならないほうがいいというくらい、医者は少ないね。とくに眼科や耳鼻科なんかの専門医なんかはとくに顕著かも。
病院の勤務医以外の独立した医者は警察とは正反対で、好きなときに好きなだけバカンスを取るから、大抵の医者は8月は不在になるんだ。病院勤務の医者も8月にバカンスを取ることは珍しくないし、この期間中は一時的に開いていない病棟なんかもあるし、地方だと緊急病棟ですら閉まっている期間があったりする。
パリなどの大都市では大きな病院が閉まることはないけれど、いったいどうやって病院を維持しているかというと、さっきの企業がインターンをバカンス中に雇うのと同じように、医学部の学生や研修医のインターンは夏のバカンス中によく行われている。とはいえ、複雑な手術を学生にやらせるわけにはいかないので、医者がどうしても足りない場合は、外部の独立医や外国の医者などを一時的に雇うなどしている。
くみ:通常時もフランスの医療システムは少し独特で、すべてを総合的に診てくれるかかりつけ医にまず相談して、必要に応じて専門医を紹介してもらうよね。慣れていないと、何か問題があって医者にすぐにかかりたい緊急時でも、まずかかりつけ医を誰かに紹介してもらって、そこから専門医を紹介してもらって……という手続きがあるよね。
夏の間はインターンや研修医が担当するというのは、患者にとっては少し怖い気もするけど、どうなんだろう? エマニュエルは夏の間に緊急で医者にかかったことある?
エマニュエル:緊急時でもかかりつけ医を通さずに直接専門医に診てもらうことはできるんだけど、保険の払い戻しができたりできなかったりする問題があるね。今のところ僕は運よく夏に緊急病棟の世話にはなったことはないよ。でも、一年を通して緊急病棟にはたくさんのインターン生がいるよ。
バカンス中のフランスについていろいろ話したけれど、これで社会のシステムが維持できているといえるのかどうか、日本の人から見るとどうなんだろうね。最後に8月のパリのイメージがとってもよく伝わる映画を紹介しよう。タイトルは『8月のパリ(Paris au mois d'août)』。これを見れば8月のパリの魅力がよくわかると思うよ。