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全国で樹木を見て歩いた記録 よく書くにはまず、よく見ることが必要だった/幸田文『木』を読む(上)

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『木』幸田 文 著
幸田 文『木』/新潮文庫

「幸田文はもっと評価されないと」

映画『PERFECT DAYS』(ジム・ジャームッシュ監督、2023年)で、役所広司演じる主人公が古書店で手に取るのが新潮文庫の『木』だ。会計の際、店主は「幸田文はもっと評価されないと」と口にする。日々の生活に材を取った、よく研がれた包丁のような切れ味の随筆で知られる女性作家は、いうなれば言語化の達人であり、現代にこそ読まれるべきだというのだろう。

ビジネスに効く名著のエッセンスを識者がコンパクトに解説する。【原則土曜日更新】

1904(明治37)年、東京生まれ。文豪幸田露伴(1867〜1947)の次女だが、文筆を志していたわけではない。24歳で清酒問屋に嫁ぐも、10年後に離婚、娘を連れ実家に戻った。父露伴との日々とその看取りを描いた作品群で文壇に迎えられたとき43歳。請われるまま鉛筆を握ったのには、今でいうシングルマザーとして、一家の経済を担わざるをえなかった事情があった。

たちまち人気作家となった遅咲きの新人は、しかし、わずか3年後、「私は筆を絶つ」と宣言して沈黙に入る。「父の思い出から離れて何でも書ける人間」となれぬうちは、書くに値しないと。

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