「がん検診」現役医師が教えるデメリットの数々 「不十分なエビデンス」に基づいた検診の弊害

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例外的に、前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSAによるがん検診」は、「前立腺がん死を減らすという研究結果」と「前立腺がん死を減らさないという研究結果」の両方があって議論があるところですが、日本では公的に推奨されていません。

アメリカ予防医学専門委員会(USPSTF)の推計によると、55~69歳の男性1000人がPSAによる前立腺がん検診を受けると、10年間で100〜120人が偽陽性となり、精密検査を受けます。場合によっては前立腺から組織を採取する生検が必要になり、一定の割合で出血や感染といった合併症が起きます。一方で、利益は0~1人の前立腺がん死の予防です(※4 Moyer VA et al., Screening for prostate cancer: U.S. Preventive Services Task Force Recommendation statement., Ann Intern Med. 2012 Jul 17;157(2):120-34)。「前立腺がんで死ぬのだけは嫌だ」という人以外には、あまりおすすめしません。

医療機関によっては、「卵巣がん検診」「膵臓がん検診」「子宮体がん検診」も行われていますが、それらのがんにかかるリスクが家族歴などからきわめて高いことがわかっているといった個別の事情がない限り、おすすめしません。

卵巣がん検診はランダム化比較試験が行われましたが、がん死を減らすことは示されませんでした(※5 Buys SS et al., Effect of screening on
ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial., JAMA. 2011 Jun 8;305(22):2295-303.)。

卵巣はお腹の奥のほうにあり、がんと確定診断するためには手術が必要になります。偽陽性の場合に害が大きいことも、卵巣がん検診がすすめられない理由の1つです。膵臓がん検診、子宮体がん検診も同様です。

国際的にがん検診が有効とされているがんは、「子宮頸がん」「乳がん」「大腸がん」ですが、これらはいずれも病変が体表面かそのすぐ近くにあり(消化管粘膜は、医学的には体表面)、確定診断のために組織を採取しやすいといえます。

「リキッドバイオプシー」の有効性

腫瘍マーカーよりも早期にがんを発見できる手法として、「リキッドバイオプシー」と呼ばれるものもあります。リキッドとは「液体」、バイオプシーとは「生検」のこと。

血液や尿などの液体中のがん細胞の核酸を検出する「マイクロRNA検査」、がんにかかると血液中のアミノ酸濃度のバランスが変化することを利用した「アミノインデックス検査」、尿中に含まれる微量のがんのにおいに線虫が反応することを利用した「N‐NOSE検査」があり、よく新聞などで「血液1滴でさまざまながんを診断できる夢の診断法」などと紹介されます。

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