都立病院の再編-小児病院廃止は誤り、改革後も脆弱な周産期医療《特集・自治体荒廃》
「この子が3歳の誕生日を迎えるまで、八王子市内から出たことはありません」
池田優子さん(41・仮名)は三女の愛ちゃん(4・同)の小さな手をぎゅっと握りしめた。
愛ちゃんはダウン症だ。1歳3カ月の時、八王子小児病院で心臓の手術をした。手術から間もないころは、今以上に体が弱かった。万一のことを考えると、実家に連れて帰ることもできなかったという。「元気にはしゃいでいても、5分後に体調が急変する。脱水症状を起こし、即入院ということもよくありました」(池田さん)。車で10分の小児病院は「精神的な拠り所」だった。
その八王子小児病院が閉院に追い込まれようとしている。
2010年3月、八王子、清瀬、梅ヶ丘の小児病院を閉院し、現在の府中病院の隣に新設する「小児医療センター」(以下、新センター)に統合する--。東京都が策定した「都立病院改革実行プログラム」の内容だ。2月中旬、3病院の廃止条例が可決される見通しだ。後述する財団法人・東京都保健医療公社への移管も含めると、かつて16あった都立病院は8病院に半減する(下図)。
石原慎太郎知事が就任した10年前、東京都は未曾有の財政危機に瀕していた。就任から2年後の01年、都立病院“改革”の青写真が示された。「都立病院は、高水準の3次(重症)医療に特化する。残る病院は統廃合もしくは公社に移管する」というものだ。医療をめぐる状況が変わり、病院機能の拡充が求められている現在も、改革プランは見直されることなく、実行されつつある。
都が示した病院統廃合の方針は、拠点病院を失う地元自治体に大きな衝撃を与えている。
「問題は、夜間救急にどう対応するかだ」。八王子市の尾川幸次・地域医療推進課長は渋い顔で話す。
東京都病院経営本部の谷田治・経営戦略担当課長は、「医療機能を府中に集約すれば、より高度な医療が提供できる。新センターには、24時間体制で小児専門のER(救急診療所)を開設する」と力説する。
だが、閉鎖予定の3病院の子どもの救急患者(急患)は、年間約2万3000人に上る。9割は入院の必要がないとはいえ、地元住民にとって小児病院は安心の拠り所だった。