都立病院の再編-小児病院廃止は誤り、改革後も脆弱な周産期医療《特集・自治体荒廃》

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いまだに見つからない2万3000人の受け皿

年間約8000人の子どもの急患を受け入れる八王子小児病院は、市内の小児救急の最重要拠点だ。開業医が持ち回りで担当する夜間診療所の準夜帯(午後8時~11時)の1次(軽症)救急と、市内の二つの大学病院の2次(中・重症)救急が、八王子小児病院を補完してきた。

問題は、小児病院がなくなった後、8000人の子どもを受け入れる能力が、どこにあるかだ。

「開業医には通常診療を終えてから来てもらっている。診療時間を延長することは考えていない」(夜間診療所を運営する八王子市医師会)。

障害児の息子を持つ矢代美智子さん(八王子市民病院を守る会代表)は、14万人分の署名を集め、都庁や市役所に何度も足を運んだ。

「都から『最低限の支援はする』との回答を得ている。大学病院への病床追加や、跡地の無償譲渡を期待している」と尾川課長は言う。ただ、都が方針そのものを見直すことはなかった。

清瀬もほぼ同じだ。都は公社が運営する多摩北部医療センター(東村山市)の小児科医を6人増やして、8人体制にすることを提案しているが、医師確保のメドは立っていない。

清瀬市在住で2人の子どもの母親は、「府中病院までは、電車とタクシーを乗り継いで小1時間かかる。病気の子どもを連れて飛んでいける距離ではない」と不安を訴える。

他方、周産期医療の分野で新センターは「絶体絶命の危機」(杉浦正俊・杏林大学小児科準教授)に瀕した多摩地区の救世主として期待されている。合併症など出産で生命に危険が及ぶかもしれないハイリスク出産の妊婦を受け入れられるからだ。

これまでは産まれた赤ちゃんを母親と引き離して運ぶ、「新生児搬送」を余儀なくされてきた。開業医から立ち会い出産の依頼があれば、専門医が同乗したドクターカー(新生児搬送専門の救急車)が出動する。赤ちゃんに異常があれば、NICU(新生児集中治療室)のある病院に運ぶ。

都内で専門医が同乗する新生児搬送は年間約800件。うち半数以上を八王子小児病院が担ってきた。ドクターカーはフル稼働の一方、弱点もあった。「母体搬送(産まれる前、胎児が母体にいる状態での搬送)ができれば、新生児の死亡率は低下する。だが、産科を持たない当院では、母体搬送を受けられない」(八王子小児病院の西田朗副院長)。

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