実録!ホームレス施設からハーバード入学の道 シングルマザーが実践!8つの「子育ての公式」

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「単語だけじゃなく、あの子が覚えられそうなら何でも読んで聞かせた。そのうち、図書館で山ほど本を借りるようになった。一緒にソファに座って本を読んだのよ」

相変わらず本を買うお金はなかったけれど、読書はいちばんの楽しみだった。公立図書館が第2のわが家になった。何時間もかけて本を選び、物語や挿絵に夢中になった。余分なお金はなかったけれど、彼女はいつも子どもの好奇心を刺激する方法を探し、のちに役立つ経験をさせようとした。「いろんなパレードに行った。昔は中心街で子どもフェスティバルをやってて、毎年見に行ったの。あちこち出かけたわね」。

バスの中さえも勉強の時間だった。「『止まれ』の道路標識を教えたり、ビルやレストランの看板を一緒に読んだり。そんな遊びをしたんです」。

母の「一生このままはイヤでしょ?」という言葉

エリザベスは、勉強だけでなく実社会で役立つ知恵も教えた。「母に言われました。『あんたは黒人なんだから、黒人同士連れだって車に乗っちゃいけないよ。警察に止められるからね』」とジャレルは振り返る。

近所の若者は、貧しさを運命として受け入れていた。けれどエリザベスは、貧困を抜け出す努力が大切だと繰り返し教え続けた。近隣の「ワル」を指さし、こう諭したのだ。

「あの人たちを見なさい、どんな暮らしをしてるかわかる? あたしたちは、どんな暮らしをしてる? 1人残らず貧乏でしょ。一生このままはイヤじゃない?」

エリザベスは息子に別の生き方も示した。ジャレルによると、母の言葉に毎日導かれていたという。「よく言われました。『運命を変えるには、勉強して人生を変えるしかないんだよ』って。それだけは譲らなかった。だから僕はずっと、勉強はここから抜け出す手段だと思っていました。『ひどすぎる、こんな暮らしはまっぴらごめんだ』と思ったんです」

8歳になる頃には、母親の苦労が実を結び始めた。ジャレルは、いくつもの分野で活躍する成績優秀な小学生になり、母に言われたから頑張るのではなく、自分の目標を見つけていた。

彼は、私たちにこう語った。「8歳のとき、大学というものがあると聞いたんです。僕はいちばんいい大学に行きたかった。いちばんいいのはどこ、と聞いたら誰かが、ハーバード大学だと教えてくれました。それで『よし、そこに行こう』と思ったんです。それが何かわかっていなかったけど、以来ずっと、行きたい大学はそこだけでした」。それでも、一家はまだシェルター暮らしのままであったという。

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