そんな敦子さんの気持ちは少しずつ変わり始める。35歳のときに4年間付き合っていた恋人と別れたのがきっかけだった。
「それまではすぐに次の恋人ができていました。でも、35歳で次を探そうとしても厳しいことに気づいたんです。36歳のときに母が亡くなり、結婚して父を安心させたいという気持ちが強まりました」
取引先の男性から「うちの会社のアラフォー男たちと合コンをしませんか」との声がかかったのは38歳のときだ。願ってもない申し出である。敦子さんはすぐに女性メンバーを集め、4対4の合コンに出陣した。そこで出会ったのが哲夫さんだった。
「真面目そうで爽やかで、明らかに合コン慣れしていません。田舎で純粋に育ってきたんだろうな、と好印象でした。20代の頃だったら物足りなく感じたかもしれません。でも、遊び慣れた男性に振り回されて疲れていたのでしょう。まったりした雰囲気の彼が『いいな』と感じました」
名刺交換をしてメールでのやりとりが始まり、2人だけで食事をするようになった。哲夫さんが自分に好意を持っていることは手だれの敦子さんにはすぐにわかった。ここからは敦子さんの独壇場である。
「付き合ってほしいと言わせるように誘導しました。それは簡単です。『気持ちを言葉にすることって大事だよね』という一般論をさりげなく何度か伝えるだけ。3回目のデートで告白してもらいました」
哲夫さんによれば「5回目のデートで告白しようと思っていた」とのこと。なぜ5回目なのか。どこかの恋愛マニュアル本に書いてあるのだろうか。彼の不慣れさが伝わってくるエピソードであり、敦子さんは軽く笑い飛ばした。
結婚生活は老夫婦のような穏やかさですごく楽
哲夫さんは2歳上の敦子さんのどこを気に入ったのだろうか。敦子さんに代弁してもらうと、クールな分析が返ってきた。
「彼は夜学に通った苦学生で、就職してからはひたすら仕事の毎日。恋愛経験はほとんどないと思います。だから、彼女という存在がいること自体がうれしそうでした」
経験豊富な敦子さんは現実を見ることを忘れない。哲夫さんは長男だ。付き合うのはいいけれど、結婚を見据えたときに哲夫さんの両親から「孫の顔が見たい」と要求されても困る。自分は不妊治療を受けるつもりはないからだ。
哲夫さんの答えはあっさりしたものだった。妹には子どもがいるが、親戚には子どもがいない夫婦もいる。子どもができるかどうかを気にする家族ではない、と。
敦子さんの心配は杞憂に終わったが、結婚して数カ月後には妊娠がわかったのだ。現在は3歳の娘中心の生活を続けている。30代半ばになるまで結婚願望がなく、子どもも好きではなかったと告白する敦子さん。現在の暮らしをどのように自己評価しているのだろうか。
「結婚生活はすごく楽です。今までの恋愛では、追いかけられるより追いかけることが好きな私が無理をしていたのだとわかりました。相手に気に入られるようにつねに頑張っていたんです。のほほんとしている夫との生活ではガツガツする必要がまったくありません。老夫婦のような穏やかさです」
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