トランプ政権が制裁、「米・イラン」は一触即発か 日本をはじめ世界は戦争を回避できるのか?

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イランの核合意の部分的履行停止とは別に、アメリカがイランの仕業だと見ている、軍事的な緊張が高まる出来事が連続して起きている。5月12日にはUAE沖でサウジアラビアのタンカーを含む4隻が攻撃を受け、ノルウェー船籍のタンカーには、船底に爆薬が仕掛けられたような跡が確認されている。

アメリカはイランによる攻撃の可能性が高いとしているが、サウジアラビアやUAEは攻撃の主体を明確にしていない。また、安倍首相がイランを訪問し、最高指導者ハメネイ師と会談する直前に日本の国華産業が保有するケミカルタンカーとノルウェーのタンカーが攻撃を受けた。アメリカ軍は映像を公開し、イランによる攻撃と断定したが、多くの専門家は画像からイランの攻撃と断定することは困難と見ており、安倍首相とハメネイ師の会談を妨害しようとする工作なのではないかとの見立てもある。

さらに6月20日にアメリカ軍の偵察ドローンをイランが撃墜したが、イラン側は領空に侵入したため迎撃したと主張するのに対し、アメリカ軍は国際水域の上空を飛行していたとして領空侵犯を否定している。6月21日には、ドローン撃墜の報復としてトランプ大統領がイランへの攻撃を命じたが、攻撃の10分前に中止を命じた。7月11日には、ジブラルタル沖でアメリカからの情報提供を受けたイギリス軍が、EUの制裁対象であるシリアの精油所に原油を輸送しているとしてイランのタンカーを拿捕し、船長を逮捕した(すでに釈放済み)。その報復として、イランはイギリスの石油会社のタンカーをペルシャ湾で妨害するといったことも行っており、軍事的緊張が高まっている。

このような軍事的な緊張は、いずれもイランの仕業と断定することは難しく、ドローン撃墜についてもイラン側は詳細なデータを提供したのに対し、アメリカは国際水域上空であったとのデータを十分に示していない。ここから言えることは、こうした軍事的緊張が明確なデータやアトリビューション(行為責任の帰属)を示すことなく、緊迫感だけが演出されているということである。

これは長年にわたる対立を続けるアメリカとイランのどちらかに、軍事的な衝突を望んでいるか、ないしは軍事的な緊張を高めることで現状を打破することを目指している勢力がいるということである。しかし、トランプ大統領は戦争に突入することを望んでおらず、アメリカ国民も不確実な証拠に基づいて始めたイラク戦争の記憶が鮮明に残っており、イランとの戦争を熱望するという状況にもない。偶発的な衝突はありうるだろうが、大規模な紛争に発展する可能性は低く、しばらくの間はいくつかの事件が起こるだろうが、それらを個別的に解決しながらエスカレーションをコントロールする、という神経戦が続くであろう。

日本はさらなる仲介外交を

最後に、日本はこの状況にどう対応すべきか論じておこう。イラン・イスラム革命以来、初めて現役首相としてイランを訪問し、仲介外交に乗り出した安倍首相だが、タンカー襲撃事件により、そのモメンタムは失われてしまった。しかも日本の船会社が所有するケミカルタンカーが狙われたこともあり、ホルムズ海峡における航行の自由の問題にも対処しなければならない状況にある。トランプ大統領は多国籍軍を編成して航行の自由を確保すると主張しているが、その多国籍軍に参加することは、イランに対する軍事的圧力に荷担すると見られる恐れもあり、判断は難しい。

先に述べたように、戦争となる可能性が低いとすると、日本は軍事的緊張を高めないよう、再度仲介外交に乗り出すことも可能であるし、バーター取引による原油の輸入の拡大でイラン経済の苦境を多少なりとも緩和することはできる。日本が持つユニークな価値は、やはりアメリカとイランの間でコミュニケーションのチャンネルになりえるということにある。それを最大限活用して、緊張の緩和に向けて、努力する意味はあるだろう。

鈴木 一人 北海道大学教授

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すずき かずと / Kazuto Suzuki

2000年英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学准教授などを経て現職。2013~15年、国連安保理イラン制裁専門家パネルのメンバーを務めた。著書に『宇宙開発と国際政治』など。

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