トランプ政権が制裁、「米・イラン」は一触即発か 日本をはじめ世界は戦争を回避できるのか?

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アメリカ・イラン関係の緊張が高まっているとはいえ、イラン側の対応を見ると、きわめて自制的であることがわかる。

第1に、イランの核合意停止の手続きはイラン核合意(JCPOA)第36条に則ったものである、というイランの主張には一定の合理性がある。核合意第36条は、イラン核合意を締結したP5+1(米英仏中ロ+独)とイランの間で履行の問題があった場合の紛争処理手続きを定めている。

イランは欧州3カ国とEUがイランとの経済的な関係をきちんと構築しなかったことを「履行の深刻な不履行(significant non-performance)」として提訴し、その問題を解決する60日の交渉期間を設け、その期間のうちに問題が解決しなければ合意の履行を一部停止することが認められている。5月8日にイランは申し立てを行い、問題が解決しなかったとして、7月7日に第二弾の核合意の部分的履行停止を主張している。今後もイランと欧州の間の経済活動を保証する仕組みができなければ、60日ごとに部分的な履行停止が繰り返されるものと見られる。

高濃縮ウランを造るには量が少なすぎる

第2に、イランは核合意履行を部分的に停止しているが、その停止した履行義務はいずれも核兵器開発に結び付かない穏健なものであり、すぐにでも核合意の履行に戻れるようなメニューを選択している。5月8日から履行を停止したのは低濃縮ウランの貯蔵量の上限である300キログラムを超えた貯蔵である。イランは5月8日から徐々にこの量を増やしており、7月に入った時点で300キロを突破した。ただし、突破をしたといっても少量であり、核兵器に必要な高濃縮ウランを造るには量が少なすぎると見られている(3.67%の低濃縮ウランから兵器級のウランを造るためには1500キロ以上の量が必要)。

同様に、7月7日から開始した第二弾の履行停止も3.67%の濃縮度を超えた濃縮を行うというものだが、イランは4.5%の濃縮を開始したと言い、国際原子力機関(IAEA)もそれを確認している。しかし、兵器級の高濃縮ウランは90%程度の濃縮度が必要であり、一般的な軽水炉での燃料として使われる低濃縮ウランの濃縮度が5%(日本の原発の水準と同様)であると考えると、4.5%の濃縮は核合意での規定以上の濃縮度ではあるが、核兵器を製造するにははるかに低い水準であり、今回の履行停止が即座に核兵器の開発に結びつくと考えるのは無理がある。

第3にこれらの措置はいずれも可逆的である。上限を超えた貯蔵分の低濃縮ウランは、輸出するなりして国外に移転してしまえば一瞬にして核合意の制限内である300キロに戻ることが可能であり、濃縮度に関しても、遠心分離機にかける時間を短くすればすぐに3.67%の濃縮に戻ることができる。逆に言えば、可逆性の低い措置、例えばアラク重水炉の再建設や遠心分離機の増設、さらにはIAEA査察官の追放といった措置はとっていない。特に後者は重要であり、イランが核合意の履行を停止したとしても、その現状が常にIAEAによって査察され、確認されるという状況が残っている限り、イランは容易に核兵器を開発することはできない。その意味でもイランの対応はきわめて自制的であり「核合意は部分的に履行停止するが、核兵器を造る意図はない」というメッセージを発していると見ることができる。

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