『ナルコス』にハマった人はおそらく「マッチ度90%以上」で『全裸監督』が表示されるでしょう。ダークヒーローや負け犬を意味する「アンダードック」の物語好きにはたまりません。バブルの時代に欲望と金が崩壊していくアダルト業界ビジネスドラマとしてもじっくり味わえます。
『全裸監督』の総監督を務めた武正晴監督も「ぜひアンダードックの物語として見てもらいたい」と話しています。これを強調することに実は理由があります。ともすれば、単純にAVの作品として見られがちだからです。
「日本ではAVをテーマにしているという理由だけでマーケティングを若い男性だけに絞る。どのあたりの客層がどれぐらいの規模で(劇場)に入るのか。それが見えないと今は企画すら成立しない。でも、そんなせせこましい考え方では小さい金しか生まない。
日本の作品づくりは霞がかかり始めてしまっていますよ。アンダードックの登場人物たちがどうなっていくのか。こいつらだって何かあるかもしれない。と、興味を湧かせればいい。本編にはヤクザ役も登場しますが、それも作品を作り上げるために必要なキャラクターだから。世の中はいろいろな立場にいる人で構成されていることを俯瞰し、しっかりそれらを拾ってキャラクターにしていくことを日本の作品も求めるべきだと思います」(武監督)
黒木香誕生の『SMぽいの好き』撮影シーンは作品のキモ
武監督が語るように、さまざまなキャラクターが登場します。
会社が倒産し、妻に浮気された村西とおるがアダルト業界に入るきっかけを作った相棒トシ(満島真之介)や、村西の理解者であり、共に立ち上げたアダルトビデオスタジオ「サファイア映像」社長の川田(玉山鉄二)をはじめ、吉田鋼太郎、板尾創路、リリー・フランキー、國村隼、石橋凌、小雪らベテラン勢が演じるキーパーソンもストーリーに深みを持たせます。
そして、後に黒木香となる恵美(森田望智)というヒロイン像も男性目線に頼った描き方ではないことで『全裸監督』のキャラクターづくりの真骨頂を発揮しています。
タイトルにある「全裸」に1ミリも嘘がなく、AVシーンも満載です。黒木香が生まれる『SMぽいの好き』という作品の舞台裏も濃密に描かれ、『全裸監督』のキモのシーンでもあります。
家族と見るのははばかられる作品であることに間違いはありませんが、AVそのものに嫌悪感を抱くことが多いであろう女性の視聴者層も共感できるポイントが高い作品であると断言します。それは森田望智が演じた恵美を通じて、自己表現の自由を求めた一人の女性の姿も省かれることなく描かれているからです。
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