熱中症を軽視する人はこの危険をわかってない 対処を間違えると健康な若者でも命を落とす

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3つ目のポイントは持病の管理の徹底だ。猛暑が危険なのは、熱中症を起こしやすくなるからだけではない。高齢者の持病を悪化させることがある。

昨年10月、中国の復旦(ふくたん)大学の研究者が中国の272の都市の住民を対象に、気温と死亡率の関係を調査した結果を発表した。

この研究によると、最も死亡率が低いのは22.8℃のときで、寒暖いずれでも死亡率は上昇していた。

彼らの推計では、事故死を除く死亡全体の14.3%が気温変化と関係していた。このうち11.5%は低温、2.8%が高温によるものだった。いずれの場合も心疾患や脳卒中が増える。

「真夏の熱波」の恐ろしさ

私は20代から30代前半まで、循環器集中治療室(CCU)で勤務したが、この報告は私の感覚にも合う。冬場は心筋梗塞、夏場は心不全の患者が増えるからだ。夏場は持病が悪化しやすい。少しでも体調が変化したら、遠慮せずに主治医と密に相談するようにしてほしい。

実は、この研究の結果の解釈には注意を要する。この研究で極寒と定義されたのはマイナス6.4~1.4℃、猛暑は29.0~31.6℃だった。日本の真夏の気温はこんなレベルではない。熱波が到来し、気温35℃以上の猛暑が続く。このような猛暑が高齢者の健康にどのような影響を与えるかは、まだ充分な研究が進んでいない。

専門家は強い危機感を抱いている。今年4月、アメリカ国立気象局は「他のすべての気象イベントよりも、熱波によって、より多くの人が亡くなる」という見解を表明した。世界で最も権威がある医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』は、今年6月20日号で熱中症に関する総説を掲載し、アメリカ国立気象局の見解を紹介している。専門家の危機意識の程がおわかりいただけるだろう。

以上、熱中症対策の最新の研究成果についてご紹介した。皆さんが夏を無事に乗り切るための参考になれば幸いである。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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