熱中症を軽視する人はこの危険をわかってない 対処を間違えると健康な若者でも命を落とす

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「OS-1」は美味な飲み物ではない。それでも、患者さんが「OS-1」を購入するのは、それだけ、熱中症に対する認識が深まったことを意味する。

2つ目の対策は、高温多湿な環境を避けることだ。夏場はクーラーが必須といっていい。設定温度は個人差があるだろうが、28℃以下が望ましい。

問題は扇風機だ。エアコンの効いた部屋で扇風機にあたるのは問題ないが、扇風機だけに頼るのはよくない。かえって熱中症のリスクを高めるかもしれない。

「扇風機のみ」は高齢者にとって危険

2016年9月、アメリカの医師会誌『JAMA』は、テキサス州の医師たちの研究成果を掲載した。 

この研究では、平均年齢68歳の高齢者9人を対象に、男性はショートパンツ、女性はショートパンツとスポーツブラの格好になって、42℃に維持された室内に座って貰った。湿度は30%で30分、その後5分ごとに2%ずつ最高70%まで上昇させた。

この手順を扇風機あり、なしの場合に分けて繰り返し、深部体温や心拍数などを記録した。扇風機は16インチのものを、被験者から1メートルの距離に置いた。

結果は意外だった。扇風機を用いた場合のほうが心拍数、深部温度ともに上昇し、その差は統計的に有意であった。このような結果になったのは、体温を超えた室内の空気を、扇風機が継続的に送り続けるからだろう。夏場にクーラーを使わなければ、室内の温度は容易に体温を超える。このような環境下では、クーラーなしで扇風機を使えば命を危険にさらすことになる。

この研究結果は、2015年2月に『JAMA』に掲載されたカナダの医師たちの報告とは正反対だ。この報告では平均年齢23歳の若年者を対象に扇風機の熱中症予防効果を検証したが、扇風機にあたったほうが深部体温は低下していた。

この2つの試験の結果の乖離は、若年者は扇風機にあたることで、全身の発汗が増えたが、高齢者ではそうでなかったためだ。加齢に伴う汗腺機能の低下が影響していると考えられている。

この研究結果は示唆に富む。みずほ情報総研が2014年に実施した東京電力管内に住むおよそ960人を対象とした調査によると、エアコンを使わない人の割合は20代が18%、30~50代が30%前後であるのに対し、60代で35%、70代では39%と上がっていた。

節電意識に加え、加齢とともに体温調整機能や温度を感じる機能が低下し、エアコンをかけっぱなしにすると体が冷え切って不快感を抱くからと考えられている。少なからぬ高齢者はクーラーを使わず、扇風機に頼るが、その扇風機は決して安全とは言えない。残念ながら、このことはほとんど社会で認知されていない。

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