英語ができる人は「顔と体」をフルに使っている 子どものころから育てたい非言語表現

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ドラマ教育を幼いころから経験してきた高校生は、こう話します。「高校の英語では仮定法過去といって『現実とは異なることを仮定する表現』というやっかいな文法を習います。パズルのようにややこしくて、英語圏の人は面倒なことを考えるものだと思ったものです。

ところが、先日のドラマ『ヘンゼルとグレーテル』のお菓子の家の場面にあったグレーテルのセリフに、仮定法過去が登場していました。学校では厄介だった仮定法過去も、この場面でのグレーテルの嘆きを感じると、仮定法過去も何だか身近なものに思えてきました」。

このようなドラマでの言語体験を何度も繰り返し経験していくことによって、子どもが外国語である英語を自分の言葉として身に付けていくことができるのです。

高度なコミュニケーションが増えているからこそ

また、ドラマ教育は英語を学ぶうえで重要なもう1つの要素、相手の心を読む力を養うのにも役立ちます。ドラマ教育では、台本があってもなくても、実際に言葉をやり取りしながらドラマを構成していきます。このプロセスでは、相手が何を言おうとしているのかを感じながら、自ら言葉を発することになります。

実際、ドラマ教育的な要素を持つ英語学習の経験を持つ人は、社会に出ても「言語的なものだけでなく、目やジェスチャーなども使用して伝えようとする態度が備わっている」「劇の中での必然性を持つ言葉が身に付くので、その場に応じた英語を話すことができる」「その場に合った言葉の『勢い』を身に付けている」と話しています。こうした英語力は、表現することが求められるこれからの時代、ますます重要になっていくでしょう。

「人とのコミュニケーションには、『相手の心を読む』といった作業が必要」というと、何かことさらに相手の意図を一生懸命に読みとる、推測するというように聞こえますが、けっして特別なことではありません。私たちは自然に、言葉を身に付ける乳幼児のときから、相手の気持ちを読みながらコミュニケーションしています。

先ほどの「I like it」も、相手の気持ちをくみ取ったら、もしかすると「本当は好きではないけれども相手の手前、好きと言わざるをえない」という意味を持つ場合もあるでしょう。母語ではそのようなコミュニケーションをしているのですから、英語でも相手の気持ちを受け止める受け答えをしたいものです。そのような会話の進め方は、幼いころから母語で多くの人とのやり取りを通じて学ぶのがいいでしょう。

近頃の子どもたちの生活では、対面でのコミュニケーションの機会が減って、メールやLINEを通してのコミュニケーションの機会が増えています。彼らが大人になっていく頃には、さまざまな技術発達により、さまざまな形でコミュニケーションする場が多くなるでしょう。

しかしながら、対面ではないコミュケーションでは、表情などがわからないぶん、相手の気持ちを読むのがより難しくなるということです。ですので、幼いときから、ドラマ教育などを通じて相手の心を読む力を身に付けることはけっして損にはならないはずです。

木原 竜平 ラボ教育センター 教育事業局長

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きはら りゅうへい / Ryuhei Kihara

1987年、筑波大学卒業、ラボ教育センター入社。東京、名古屋、大阪にて営業、指導者研修を担当。2002年より東京本社にて、外国語習得、言語発達、異文化理解教育について専門家を交えての研究に携わる。日本発達心理学会会員。日本子育て学会会員。ラボ・パーティは1966年「ことばがこどもの未来をつくる」をスローガンに発足し、2016年に50周年を迎えた子ども英語教育のパイオニア的存在。
 

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