「東大中退」「余命5年」42歳ラッパーの壮絶人生 ダースレイダーを支えたヒップホップの精神

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「世界にはレイ・チャールズやスティービー・ワンダーといった、誰もが知る盲目のアーティストがいる。もし両目が見えなくなったとしても、彼らという存在がある。彼らにできて自分にできないことはないかなって」

そうかもしれないが、そう簡単に気持ちの切り替えなどできるものだろうか。

「病気は不幸だし、しんどい。それは間違いないんです。でも、病気で倒れる前の僕と、今の僕。どちらが楽しいか、どちらが幸せかと言われれば、簡単には比較できません。今の自分だからこそ考えられること、出会える人、話せることが確実にありますからね。

病院にいた期間は長くないですが、最もハードで多くを学んだあの時間は、僕にとってまさに“通過儀礼”で、ひと回り成長したと思っています」

マイナスはプラスに変わる

こうしたダースレイダーの考え方の根底にはヒップホップの哲学がある。

もともと、遊ぶ金もないアメリカのマイノリティーたちが公園にターンテーブルを持ち出して遊んだのが音楽になり、カルチャーになった。マイナスの状況をプラスに変える逆転の発想こそがヒップホップの原点だが、ダースレイダーは闘病というチャプターにおいてもこのヒップホップの真髄を地でいった。

「病気や事故、先天的でも後天的でも自分の不遇をマイナスとして抱え込む人は多いけど、僕はマイナスがプラスに変わることを証明したかったんですよ。自分の経験をラップにしたり、本にしたりすることで誰かが共感してくれる。病人をレペゼン(代表)して発信することで、誰かの役に立つかもしれないから。

この眼帯もそう。これは自分でプロデュースする眼帯ブランド『OGK』のものですが、既存のものはどれも丹下段平みたいなのばっかりでつまらなかったから自分で作りました(笑)。病人は弱った存在というイメージを持たれているなら、その発想を逆転させ、自分が『楽しくて派手な病人』になって病人像を覆す。そうすることで『病気でも元気でいいんだ』っていう気づきを誰かが得てくれるかもしれないから」

両親は若くしてこの世を去り、自身も40歳という若さで「余命5年」を告げられたダースレイダー。そんな彼は今、どんな死生観にたどり着いたのか。やはり短命かもしれない自分の運命をどう受け止めているのか。

「妻にも伝えていることですが、僕は遺書をUSBに入れて持ち歩いています。いつバタンッ!ときても大丈夫なように。僕が死んだときはこうしてほしいということが書いてあります。遺書はその都度で内容を更新するので、そのたびに死について考えますよ。だからこそ、今生きているということも実感するんですよね。

もちろん、死は恐れるもので、できるなら避けたいものですが、僕の場合は脳梗塞のときに1度死にかけているので、今さら恐怖はありません。いくら死にたくないと祈っても、“その日”は突然やってくるでしょう」

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