「ケーキを等分に切れない」非行少年たちの実情 「認知力」を向上させなければ更生は望めない

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ではどうしたらいいのか。答えは病院にはありませんでした。病院は世間では最後の砦のように思われていますが、実は発達障害や知的障害があり、さまざまな問題行動を繰り返す少年に対しては、結局は投薬治療といった対症療法しかなく、根本的に治すことは困難なのです。

私は、病院でできることが限られていることを痛感してから悶々とした日々を過ごしていました。ほかにも殺人や殺人未遂などを行った発達障害をもった少年たちの精神鑑定に携わり、彼らの犯行に至った背景や問題点はよくわかるのですが、具体的にどう支援すればいいのかについては、皆目見当がつきませんでした。

投薬以外の個別カウンセリング、認知行動療法、作業療法などで解決するとは到底思えず、かといってそれ以外のノウハウもありません。そういった治療を専門にしている医療機関や医師も、国内で調べる限り見当たりませんでした。そこでいろいろと調べていくうちに、そういった少年たち──発達障害や知的障害があり非行を行った少年たち──が集められる矯正施設(医療少年院)が、三重県にあるのを知ったのです。

医療少年院に赴任した

障害のある子どもたちは本来、大切に守り育てないといけない存在です。それなのに加害者となって被害者を作り、矯正施設に入れられてしまうのです。

まさに「教育の敗北」と言っていい状況です。そういった「最悪の結末とも考えられる施設」に行けば、何か支援のヒントが見つけられるのではないか。それまで勤めていた精神科病院を辞め、医療少年院に赴任することにしました。

公立精神科病院で児童精神科医として勤めていた私は、児童・青年のことはひととおりわかったつもりになっていましたが、少年院に来てみて実はまだほとんど何も知らなかったことに気づきました。

同じ発達障害の子でも病院とはまったく違うことが問題になっていたこと、病院を受診する児童・青年は比較的恵まれた子どもたちであることなども知りました。もちろん虐待を受けた子どもたちもいましたが、基本、病院には保護者や支援者がいるからこそ連れてこられるわけです。

問題があっても病院に連れて来られず、障害に気づかれず、学校でいじめに遭い、非行に走って加害者になり、警察に逮捕され、更に少年鑑別所に回され、そこで初めてその子に「障害があった」と気づく、という現状があったのです。現在の特別支援教育を含めた学校教育がうまく機能していなかったのです。

なかでも驚かされたのが、「ケーキを切れない」非行少年たちがいたことでした。ある粗暴な言動が目立つ少年の面接をしたとき、私は彼と向かい合って紙の上に丸い円を描いて、「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか? 皆が平等になるように切ってください」という問題を出してみました。

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