「ケーキを等分に切れない」非行少年たちの実情

「認知力」を向上させなければ更生は望めない

例えば、AさんがBさんにあいさつして、Bさんから返事がなかったとします。そこでAさんは「Bは僕をワザと無視した。僕のことが嫌いなのだ」と考えると怒りが出てきて、今度はAさんがBさんを無視したり、意地悪したりするかもしれません。そこで認知行動療法ではAさんに違った考え方をしてもらいます。「ひょっとして僕の声が小さかったからBさんが気づいていないのでは?」「Bさんは何か考え事に夢中になっていて気づかなかったのでは?」などです。

こう考えると、Aさんは「それなら仕方ない。もう1回大きな声であいさつしてみよう」と考え、再度あいさつするかもしれません。そこでBさんが返事を返してくれれば、Aさんは「Bは僕をワザと無視した。僕のことが嫌いなのだ」といった思考が歪んでいたことに気がつきます。すると、その後はより適切な行為・思考・感情につながっていくことになります。同時にあいさつの仕方といった対人関係スキルの改善にもつながります。

「もうしません」と真剣に繰り返すが…

このように考え方を変えることでより好ましい行動につなげていく認知行動療法は、性加害者への治療プログラムの根幹にもなっています。性加害者は、性に対して歪んだ思考(「実は女性は襲われたいと思っている」など)を持っていたり、対人関係において「社会の人たちは皆敵だ」「自分は皆から避けられている」「自分には価値がない」といった攻撃的、被害的思考を持っていたりする場合があり、そういった歪んだ思考が性加害行為につながっている可能性があります。

そこで認知行動療法を使ってそういった歪んだ思考を修正して好ましい行動に変えていくのです。私が彼に使っていたワークブックも、まさにそういった方法に基づいて作成されていたのです。

その少年はワークブックを終えるたびに「わかりました」と答え、また外来でも「もうしません」と真剣に繰り返すので、「今度こそ大丈夫だ」と思うこともたびたびだったのですが、状況はまったく変わりませんでした。次の診察で会うときまでには何らかの性の問題を起こすということが何度も続いたのです。

どうして変わらないのだろう、と思い悩む日々が続きました。後になってその原因がわかったのですが、彼は知的なハンディも併せてもっていたために認知機能が弱く、ワークブック自体がしっかりと理解できていなかったのです。

認知行動療法は「認知機能という能力に問題がないこと」を前提に考えられた手法です。認知機能に問題がある場合、効果ははっきりとは証明されていないのです。では認知機能に問題があるというのはどんな子どもたちか。それが発達障害や知的障害のある子どもたちなのです。つまり発達障害や知的障害がある子どもたちには、認知行動療法がベースとなったプログラムは効果が期待できない可能性があるのです。でも実際に現場で困っているのは、そういった子どもたちなのです。

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