20・30代が「老後までに2000万円」を貯める方法 金融庁の報告書を「お蔵入り」にしてはいけない

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実は、騒動になった報告書は、6月に大阪で開催された「G20サミット」(20カ国・地域首脳会議)に向けて重要な意味を持っていたのです。「老後に2000万円必要」という試算ばかりが独り歩きしてしまいましたが、あの報告書の本当の狙いは、G20の重要なアジェンダ(議題)の1つである「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」について、議長国の日本が方向性を示すことにありました。

日本は超高齢社会の課題先進国です。長寿社会においては、資産管理・運用をはじめとした金融リテラシーが高齢者に求められるものの、一方で高齢者は金融サービスにアクセスしにくい、あるいは金融サービスから排除されやすいといった点が問題視されており、それに対する取り組みは世界的にも必須です。

コモンズ投信の会長で創業者の渋澤健氏は、渋沢栄一の5代目子孫にあたる。小学2年生からアメリカで育ち、JPモルガン、ゴールドマン・サックスなどを経て、2007年に同投信を立ち上げた。経済同友会幹事も務める(撮影:今井康一)

とくに中国、韓国、タイなど、これから急速に高齢化が進んでいく国は、すでに超高齢社会に突入した日本が、この課題に対してどう向き合い、取り組みを進めるかは参考になります。

中国に至っては、急速な経済発展を背景に貧富の差が拡大し、年齢的に上の層は他の世代に比べて金融資産が乏しいという問題も生じています。しかも中国では、年金をはじめ社会保障の整備が不十分です。このまま2025年に高齢社会、2035年には超高齢社会へと移行していくことになれば、日本以上に深刻な状況となるでしょう。

報告書は、こうした世界の課題解決に向けて先鞭をつけるものであったはずなのです。それが、内容を曲解したメディアの偏向報道と政局のあおりを受け、握り潰されてしまった。次の世代に対する裏切りであり、その罪は極めて重いといわざるをえません。

「つみたてNISA」を恒久的な措置に

今回の報告書は、「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」について、かなり踏み込んだ制度改善策も盛り込んでいます。「まずもって国民が長期のライフプランに沿った資産形成に安心して活用できるよう、時限を撤廃し、恒久的な措置とすることが強く望まれる。また、より利便性の高い制度を構築するため、非課税保有期間について無期限とすること、ライフプランにそって拠出額を柔軟に変更させることができるようにすること、現在は回転売買防止の観点などから認められていないスイッチングを条件次第で可能とすること」などと提言しているのです。

現状、「つみたてNISA」は2037年までの時限的措置で、非課税保有期間は20年とされています。これらが撤廃され、恒久的措置になれば、個人が長期的な資産形成を行うに当たって強い武器になります。例えば「つみたてNISA」の限度額は年40万円ですから、毎月の積み立て額上限は3万3000円です。これを年平均3.3%の利回りで積み立て投資を続けると、30年の積み立て期間で2000万円になります。20代、30代の人なら十分に手が届く話です。ちなみに株式の国際分散投資による長期リターンは年平均7.5%で、これが仮に今後も続くとすると、30年後に2000万円をつくるには月々1万5000円の積み立て額で済みます。

もちろん前述したように、「つみたてNISA」は2037年までの時限的措置で、非課税保有期間も20年ですから、現制度のままだと、これを用いた30年間の積み立て投資は不可能です。だからこそ今回の報告書が提言するように、恒久化が求められるわけですが、その実現可能性は大きく後退してしまいました。今回の報告書がお蔵入りになったのは極めて残念でしたが、「つみたてNISA」の制度改善を実現するためにも、国民一人ひとりが声を上げる必要があります。将来の資産形成は私たち全員の問題でもあるからです。

鈴木 雅光 JOYnt 代表、金融ジャーナリスト

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すずき・まさみつ / Masamitsu Suzuki

1989年岡三証券入社後、公社債新聞社に転じ、投信業界を中心に取材。2004年独立。出版プロデュースやコンテンツ制作に関わる。著書に『投資信託の不都合な真実』、『「金利」がわかると経済の動きが読めてくる!』等。

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