「SNS」と「生態系」、実は似ている本当の理由 「怒り」と「共感」がミームを「バズらせる」

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怒りのトリガーを伴わずともネット上で拡散し、結果として現実の世界を動かした事例が、著者のビジネス上の体験談を含め、本書ではいくつか紹介されている。単純に実行可能とはかぎらないが、ポジティブな感情を起こすためにミームやソーシャルメディアをどう利用するべきかという方法論について、きっと何かのヒントを与えてくれるはずだ。

コンテンツ規制やアカウント停止は「抗生物質」

ところで、コンテンツに何らかの規制をかければ、ソーシャルメディアのネガティブな側面は解消するのだろうか? コンテンツ規制がなければたしかに、ネットワークにはポルノや人種差別的発言があふれてしまうかもしれない。実際に、フェイスブックやツイッターなどのサービス提供者が特定の種類のコンテンツを自動的に排除し、アカウントを停止することはよく知られている。

本書の著者らは規制に全面的に反対しているわけではない。だが、この種の規制は本質的な解決にはならないし、長い目で見ればマイナスになるというのが著者らの立場だ。ミームを伝えるのはソーシャルネットワークに参加する人々そのものであり、個々人が自発的に反応することがソーシャルネットワークという生態系の繁栄にとって非常に重要だ。

規制や検閲はいわば抗生物質であり、対処療法にすぎない。検閲で庇護されたソーシャルネットワークは、免疫機能が低下した生物と変わらないと著者らは主張する。何らかの規制が行われる場合、何がどんな基準で悪質コンテンツと判断されるかは不明であり、著者らが規制に警鐘を鳴らすひとつの理由はそこにある。

本書ではそのほかに、ソーシャルネットワークの進化がアートの分野や企業経営などに与えた影響についても、たいへん興味深い論考が行われている。

大方の人々にとってソーシャルメディアは「思わぬところで波が高くなったり潮の流れが変わったり、どこからともなくハリケーンが発生したりする巨大な海のようなもの」だろう。ソーシャルメディアについて理解したい人に、そしてこのデジタルな時代に人間の社会がいかに機能しているかを理解したい人に、ぜひおすすめしたい1冊だ。

森内 薫 翻訳家

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もりうち かおる / Kaoru Moriuchi

上智大学外国語学部フランス語学科卒業。主な訳書に、セドラチェク&タンツァー『続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析』(東洋経済新報社)、ラケット&ケーシー『ソーシャルメディアの生態系』(東洋経済新報社)、ブラックバーン&エペル『細胞から若返る! テロメア・エフェクト─健康長寿のための最強プログラム』、バーナム&フェラン『いじわるな遺伝子─SEX、お金、食べ物の誘惑に勝てないわけ』(以上、NHK出版)、フォックス『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)、ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』(河出書房新社)ほか多数。

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